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第119話 バー青山
今夜もブルースが時を刻む。バー青山。
いい音楽といいお酒。夜が始まる。
地下の店、ジュネとは違うタイプの夜。
大人の時間。
「懐かしいな、Ajaだ。スティーリー・ダン。
これがかかると、グッと大人のムードになる。」
客が話し出す。
「ああ、昔を思い出す。切ない都会の夜。」
「大学、東京だったんですね。」
「今はみんな地方に移ってしまったけど、当時は神田界隈はカルチェラタンを標榜してた。
大学が集まって。俺はノンポリだったけどな。」
この店は年齢層が高い。それが逆に若者に受けて、若い人も多い。
「いらっしゃい。」
徹司と美弦がやって来た。太郎も後ろから顔を出した。
「ピアノの帰り。美弦はこれから仕事だよ。」
「ああ、これから朝までバカ騒ぎに付き合うんだよ。」
「マスターすみません。子供はダメですよね。」
徹司が申し訳なさそうだ。
「太郎君、大きくなったね。背が伸びた。
まだ、中学生なんだって?」
「マスター、太郎は高校に行かないって言うんだよ。何とか言ってやってくれよ。」
このところ、太郎は早く大人になりたいらしい。
「いよいよ、親離れだね。」
太郎はレコードが回っているターンテーブルをじっと見ている。
「おとな、おとな、おとな、か?
俺、高校には行かないで極道に弟子入りする。」
「太郎君、極道は徒弟制では無いよ。」
マスターの言葉に徹司が顔色を変えて
「高校に行って、大学に行って、素敵な人に出会って恋をするんだ。俺と美咲みたいに。」
「そして相手が死んでしまうんだろ。」
「太郎!」
(どうしたら好きな人とずっと一緒にいられるんだろう。)
「早く大人にならなくていいんだ。
いいんだ,急がなくて。」
「徹司はどうやって乗り越えたの?
美咲がいなくなって?
強いね。徹司は強いね。
もしも相手が死んでしまったら、って思うだけで,じっとしていられないんだ。」
極道はいつ死んでもおかしくない。
なら、今一緒にいたい。
美弦が、
「会っていくか?
せっかくここに来たんだから。」
「やめろよ。余計な事するな!」
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