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第121話 酷い一日

 酷い一日だった。何も解決はしていない。 これからも子供は攫われ続けるのだろう。  子供は消え続ける。  陸は疲れていた。店の様子を見ようと、顔を出すと、美弦が太郎を連れて来ていた。  まだ早い時間だ。ピアノで遊んでいる。 「太郎。」 (俺の癒し。また、大人っぽくなったな。) 「陸、会いたかった。」 泣きそうな顔をした太郎が愛しい。 (二人きりになりたい。)  そんな場所はどこにも無い事を知っている。 徹司が来た。客として席に案内されている。  太郎と一緒に、零士が接客している。 (俺が席につくわけにはいかないな。)  ホストでもない、指名されてもいない。 太郎は大人っぽくて中学生には見えないから問題ないだろう。 (ああ、抱きしめてキスしたい。) 「陸さん、あまり店内をうろつかないでくださいよ。」  見るからに堅気ではない陸を牽制する。 奥に引っ込んだ陸は、気の乗らない事務仕事を始めた。いつもは流星の仕事だ。 「陸、子どもの身元はわかったそうだね。」 「ああ、ひでぇ親がたくさんいる。 俺は何も出来ないんだな。極道に世の中良くする、なんて大それたことだったんだ。  あのガキを買いに来る奴らを締め上げて、組織を叩き潰したい。」  黙って話を聞いてくれる流星の存在がありがたい。  そこそこ稼いでシノギも欠かさない陸だが 世の中動かすほどの財力は無い。  ソファに寝っ転がって不貞腐れる。太郎の顔を見てしまい、流星を抱く気にもならない。 (結局、俺は孤独なんだ。 ガキの頃から一つも変わらねえ。)  立ち上がって車のキーを取った。 「ちょっと出かけてくるよ。 親父の所だ。安藤の家だよ。」  陸は母親代わりの稔に会いたくなった。 親父の安藤甲斐は亡くなって、稔は小料理屋をやっている。料理の旨い落ち着く店だ。 「ただいま。おふくろ、ご無沙汰。」 「まあ、陸ちゃん、いつも突然ね。 流星は元気?ウチの嫁は?」  笑いながら言う。優しさが溢れている。 どんなおふくろよりおふくろらしい稔。 「陸の好きなレンコンのきんぴら,あるわよ。」  客が入って来た。 「おうっ、オカマ、旨いもんあるか?」

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