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第122話 喧嘩上等
感じの悪い客だった。稔が安藤組のバシタだとは、認めないと言う昔からの客だった。
「おい、おっさん、誰に向かって口聞いてる?」
胸ぐらを掴んで持ち上げた。デカい陸にチビの親父。哀れな爺さんだ。
稔は急いで包丁を隠した。
「やめろよ、息子が来てんだよ。
じじいは引っ込んでろ!」
迫力ある稔の啖呵におとなしくなった。
「この店はヤクザの店だな。
反社だ反社。警察呼べ!」
「ああ、ヤクザだよ。面白えな、警察呼べよ。」
「全く、酒癖悪いんだから。
玉川さん息子に謝って。出禁にするよ。
どこにも行くとこ無いんでしょ。」
玉川は孤独な元極道だった。
安藤甲斐が生きてた頃は、盃もらってゲソ入れて
ずいぶん可愛がられたそうだ。今では年をとって地味な暮らしぶりだ。稔のこの店に来るのが唯一の楽しみだった。
酒好きでアル中のじじい。いつも稔に甘えて絡んでくる。
「玉川さん、座って落ち着いて飲みなさいよ。」
稔の優しさに、このじじいも救われている一人だろう。
「アンタが陸さんか?
あの登龍会の若頭だって、な。
大したもんだ。甲斐親父が生きてたらなぁ。」
「ウチの人は、陸を極道には、したくなかったって言ってたよ。
でもやるならテッペンまでいけ、とも言ってたけど。」
「ああ、期待に応えられなかったな。
親父に謝らねえと。」
「おうっ、陸さん、紋紋見せてくれよ。
有名なんだよ。アンタの背中のマリア観音。
冥土の土産に拝ませてくれよ。」
懇願されてシャツを脱いだ。
「ほう、見事なもんだ。ありがたや。」
「拝んでんのか?恥ずかしい奴だな。」
「おうっ、俺も見せてやるよ。」
じじいが上に着ているシャツを脱いで、ラクダのシャツも脱いで背中を見せた。
「じじい、見事な彫りものだ。
桜吹雪に鯉掴みか?皺くちゃだなぁ。」
「昔はブイブイ言わしたもんよ。」
陸は老極道に自分の行く末を見た気がした。
「こんな年の取り方も悪くねえかもしれねえな。
熱燗、じじいにも出してくれ。」
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