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第123話 泣きたい夜
帰って来て陸は流星に甘える。
「陸、全然寝てないでしょ。
この所めちゃくちゃに不規則な生活してたから。」
あのオークション場に潜り込むためにしばらく前から準備していた。組の若いもんが、下調べして顔を繋いでくれたが、あのスタッフを信用させるために、夜の銀座を案内した。
C国人のスタッフは金(キム)と言った。
銀座が気に入ったようで、陸を金持ちの御曹司だと勝手に勘違いしてくれた。
見せ金をアタッシュケースに入れて、スカッとした高級スーツに身を包んだ陸をすっかり信用した。腕時計を見て、上客だと踏んで打ち解けてくれた。藤尾さんが裏で根回ししていた。
「陸さん、日本も本物の金持ちがいるんだね。
子供が好きなんだって?
これからどんどんつれてくるよ。」
金は陸の腕のパテック・フィリップを見て気を許す。
銀座の高級クラブで綺麗なホステスの肩を抱いてご満悦なこの男は、自分を党員だと言った。
「お国では、人民党の方が一番上なんですね。
日本語お上手だ。」
「ワタシはずっと日本に住んでました。
ま、スパイと思ってくれてもいいですよ。」
間というこの男は陸を信用してそんな事を言った。
「ワタシは子供相手よりこの綺麗な人がいいなぁ。今夜アテンドしてくれるのか?」
「彼女はナンバーワン。高いですよ。
それに一見ではダメだそうです。」
彼女は小声で
「ワタシは、陸がいいのよ。陸にだったら抱かれたい。この男はイヤ。気持ち悪い。」
見えないように手を握ってやった。
耳元で囁く。
「今度、な。」
陸の低音が彼女を濡らす。
「絶対よ、約束。」
それで、このC国人の相手をすると言ってくれた。奮いつきたいような飛び切りの美人だ。
「洋子と言います。今宵あなたのお好きなように。私を連れて行って。」
(彼女に300万、キャッシュで支払った。
金のかかる女は、唆るなぁ。)
ゲイの陸が誘惑されるようないい女,だった。
(こんな奴に人身御供にされるのか?)
陸は、惜しいと思う自分に驚く。
この数日のことを思った。
子供たちの顔。親に見捨てられ探してくれた親もいるが、気にしていない親もいた。
垣間見た太郎の顔。
帰って来て見る流星の顔。
(俺は二人とも必要だ。)
泣きたい気持ちになる。
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