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第131話 被害者

 ジュネ、に岩橋すず、が来た。夜なのにサングラスをかけてコソコソとやって来た。げっそりやつれている。また、陸をご指名だ。 「いらっしゃい。」 「あなた、嘲笑ってるでしょ。」 「なぜですか?」 「パパのスキャンダルよ。 私は変態の娘。大学にも行けないわ。」 「あなたとお父上は別の人間ですよ。 繋げて考えないで。」  すずはハッとしたように陸を見た。 「あなた、バカにしないの?」 「しませんよ。あなたはあなた、だ。」  ポロポロと涙を流した。陸は女の涙に慣れていない。  ホストの蓮がそっとハンカチを差し出した。 すずの手に渡してやる。 「シャンパンを開けましょ。」 お金ならあるのよ、とバッグを預けてくる。 (ああ、ネットでも拡散されて,彼女は被害者なんだ。)  父親が犯した犯罪に娘まで糾弾されるのは理不尽だ。 「可哀想に。」 肩を抱いてやる。 「ボーイフレンドはみんな去っていったわ。 あんなに私と付き合いたいって言ってたのに。」  大臣のコネで、みんな卒業したら就職に有利だ、とチヤホヤして来たらしい。顔も可愛いすずはお嫁さん候補ナンバーワンだったようだ。  ホストクラブではお金さえ払えば,誰も態度を変えない。ある意味フェアな世界だ。  今のすずはそれが慰めになっている。 「私どうしたらいいのかわからない。どこへ行けばいいの?」  身の置き所がない、という。 今までこんな思いをした事はなかったのだろう。陸はかける言葉もない。  クーラーに入れたシャンパンをボーイが運んできた。慣れないヘタクソな抜栓でシャンパンは溢れた。コルクを飛ばしてしまった。  客の前で音を立てて抜栓するのは下品とされている。まして高価な中身を溢れさせてこぼすのは厳禁だった。 「す、すいません。」 客の前で慌てまくっているのは、あの荒井左千夫だった。元流星の会社の上司の息子。  失踪して行方不明の父親の借金を背負って働いている。  背の低い風采の上がらない左千夫はホストにはなれなくて、ボーイをやっていた。  食い詰めて住むところもなくネットカフェを転々としていた左千夫に同情した陸が下働きに雇ったようだ。  行方不明の父親は東京湾に沈められた。ヤクザの制裁だった。  あのジュネの寮に住んでいた。意外な事に子供たちには人気者だった。

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