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第136話 高校生

 バタバタと日常が過ぎて行く。事務所に背の高いイケてる高校生が入って来た。 「えっ?太郎。高校生か。進学したんだな。」「えへっ。」  照れくさそうにこっちを見る太郎の大人っぽい顔が眩しい。  そばに来て手を握られた。積極的だ。 久しぶりに触れ合う太郎の温もり。  肩を抱き寄せてくちづけした。 上目使いで見つめてくる瞳に涙が膨らんで落ちた。美しい涙。唇で吸い取ってやる。可愛い奴。 (ああ、このまま抱きしめたい。) 「俺、もう帰らないと。さよなら。」 「早いな。」 「こっそり出て来たんだ。今日は入学式だったから、これからお祝いだって。」 「そうなんだ?忙しいのにわざわざ来てくれたんだ。ありがとう。」  何かお祝いをやろうと思った。何も用意していない。神棚の上に上がっている時計を取って太郎の手首に付けた。 「俺の親父、安藤甲斐の形見だ。 おまえがつけるのが相応しいよ。」 「流星さんに権利があるんじゃないの?」 「いいんだ、流星には別のを買ってやる。」  パテック・フィリップの時計だった。グランドマスターなら33億円で落札された記録がある。 もちろんこれはそんなに高くない。それでも億はする。どこに出しても恥ずかしくないものだった。 「ほら見て!」 以前太郎にあげた指輪を出した。あの頃は親指だったが今は人差し指に嵌めている。 「また、薬指には大きいの。」 「いつも持ってるんだな。」 「俺、陸にあげるものがない。」  可愛さに本気のキスをした。抱きしめて 「いつも太郎からもらってるよ。」 「なに?」 「太郎のまっすぐな・・愛。」  柄にもなく陸は赤くなった。 「連休になったら、どこかに旅行しよう。 徹司に許可がもらえるように頑張るよ。」 「陸が頑張るの?」 「ああ、正しく生きる。」 「ヤクザが言うとすごいね。」  自分でも柄じゃない、と恥ずかしくなった。 太郎は陸を浄化してくれる。 (俺は今までの行いを許されたような気がする。 都合のいい解釈だな。地獄に落とされるのがせいぜいなのに。)  太郎が帰って行った。

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