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第138話 高瀬医師 

 吉田が情報を掴んだ。高瀬医師はまだ、医者を続けていた。今は老人医療に特化して専ら訪問診療に力を入れていた。  あのドリーム事件の事は、警察も追求しないまま,迷宮入りだった。  高瀬医師は、自分がどの役回りだったのか、いまだに納得できてはいない。あの事件の資料を集めているが、政府が隠す部分には近づけない。  腑に落ちないことばかりだった。  高瀬医師は、覚えている限りの出来事を書面に書き残していた。証拠になりそうな人間関係も書き起こした。  その頃、その仕事を回して来た背景を思い出しては、検証している。  まだ5年前のことだ。風化するには早すぎる。 高瀬医師自身、出産に立ち会い、取り上げた赤ん坊は多い。養子縁組まで付き添っていないのが悔やまれる。 「高瀬君、何か探ってるんじゃあるまいな。 患者のプライバシーに関わる事だから、くれぐれも外部に漏れることのないように。」  当時、勤めていた大きな病院の院長直々の話だった。その病院から数人の医師がピックアップされていた。主にギネ(産科)からだった。  事情を聞いて大いに同情した高瀬医師は、内密に出産する女性に手厚く接した。 「正しい事をしているんだ。 不幸な赤ちゃんを増やさないように。  生まれた赤ちゃんはみんな幸せが約束されているんだ。」  そう信じて働いた。里親は厳しい審査を経て認められ赤ん坊を引き取る。体制は万全だと思っていた。  それでも産んだ母親は辛いだろう、と出来るだけ経過観察をした。  途中からその名簿は、取り上げられたが、わずかながら、コピーが残っていた。  仕事の合間に連絡を取ってみた。ほとんどの患者はノーコメントだった。  一人、大阪の女子高生のその後がわかった。 痛ましいことにその女性は自殺していた。  母親が里子に出した子供を返せと、訴訟騒ぎになったが、政府に揉み消された。  「その自殺した女子高生の兄が東京に出て来てるようだ。  政府関係に見つかったら口封じされる。 早く探したい。母親は鬱病で入院しているらしい。父親は前に離婚している。  砂漠で一粒の砂を探すようだ。 大阪から来た兄、なんてね。」  吉田も高瀬医師も同じ人物を探し始めた。 探しても解決の糸口になるかは,わからない。 「赤ちゃんたちはC国にもずいぶん渡ったようだ。それはもう探せないだろう。」  気持ちの悪い話だった。当時の政府関係者がからんでいる。ドリームの首謀者は日本人だそうだ。 

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