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第140話 旅行
「連休に旅行に行きたいって?誰とだ?」
「同級生の直樹だよ。剣道部だった。」
「二人で行くのか?金はあるか?」
「うん、お年玉貯めてたのあるから。」
太郎は嘘をついた。徹司に嘘をつくのは酷く心が痛んだ。直樹にも話を合わせるように頼んであった。
それでも会いたい。陸と一緒に過ごしたい。
15才になった。美弦にはバレた。
「嘘ついてまで出かけて楽しいか?」
「美弦も徹司に告っちゃえよ。」
美弦はずっとプラトニックでいいと思っていた。気がつけばいつも徹司と一緒にいる。
太郎と徹司と美弦。3人で家族になっていた。気持ちはもう家族だ。
「今更、何もないよ。」
太郎はもう陸の事しか考えられない。
「どこに行くんだ?」
「うん、近場の温泉かな。
自転車でいこうか、と思って。」
陸にはレクサスで行こうと言われている。自転車は店に置けばいい。
そんなことを知らない徹司は友達と二人で自転車?と驚いていた。
「直樹はかっこいいサイクリング車を持ってるんだ。自転車好きなんだ。」
「太郎も買ってやろうか?」
「ううん、いらないよ。
通学で使ってたのでいいよ。」
そばにいた美弦に向かって徹司は
「俺たちも温泉,行こうか?
前に新婚旅行のつもりで美咲と草津温泉に行ったんだよ。」
太郎の頭を撫でて
「な、ゆで坊。」
「えっ!俺の事?」
「そう、あの時、美咲のお腹には太郎がいたんだよ。温泉ばかり入ってたから美咲がそう呼んだんだ。」
「ゆでぼう?」
「そう、美咲のお腹を触って声をかけたんだ。」
「茹で坊?」
「温泉で茹だってたからな。」
「温泉のおかげでこんないい子が育ったな。」
夜中に陸に電話でその話をした。大笑いだ。
「大丈夫か?
俺がキチンと挨拶した方がいいんじゃないか?」
「大丈夫だよ。
徹司も美弦と一緒にどこかの温泉に行くって言ってるから。同じところに行かなければ。」
「そうか。行き先を聞いておいてくれ。
ゆで坊、かわいいな。」
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