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第142話 運転
太郎はレクサスの運転席のカッコいい陸に見惚れている。
「陸って大人って感じだね。」
「大人を捕まえて何だよ?高校生の感想か?」
「高校生って関係ないじゃない?
ただ、素敵だなって思ったんだよ。」
身体の大きな陸がゆったりと運転しているのがなんだか安心だ。
「高級車だね。お金があるって気持ちいいものだね。どこに行っても堂々としている。」
(徹司が貧しいわけじゃないけど。)
ずっと父と子で慎ましく暮らして来た。何不自由なく暮らして来たけれど、陸の暮らしは一般の人とは違いすぎる。
そして今日は二人きりだ。
陸の大きな手が握るハンドル。その横顔から目が離せない。
「行き先は決まったのか?」
「えっ、陸が決めてくれるんじゃないの?」
「観光がしたいのか?見たい景色があるか?」
「あ、何も考えてなかった。
徹司と美弦は草津温泉に行ったよ。
露天風呂付きの個室だって。
男同士で泊まるのは何だか大変そうだった。」
陸は慣れているようで
「強羅に知ってる旅館がある。
全室離れで独立してるから、
誰を連れて行っても問題ない。」
「え?陸はいつも行くの?」
陸は、ああ、しまった、と言う顔をした。
隠さずに言う。
「そうだ、流星と来た事もあるよ。
俺は背中の刺青があるから他人とは入れないだろ。温泉の大浴場とかは無理なんだよ。」
「ああ、この前見せてくれたね。綺麗だった。」
(もう一度見られるなんて嬉しいな。)
それがどう言う事なのか、今一つわかっていない太郎だった。
丁寧な女将さんの出迎えで、本館の横の道を案内されたのは、詫びの利いた離れだった。
年配の仲居さんが付き添って、中を案内してくれた。
「わあ、綺麗な部屋だ。和室なんだね?」
「奥に露天風呂がございますよ。
源泉掛け流しですからいつでも入れます。」
仲居さんの言葉に
「若はよくご存知よ。
お食事は6時でよろしいかしら。」
女将さんが言った。
「陸、よく知ってる所なの?」
「ああ、女将はプロじゃねえな。
わざとか?」
陸が前にも誰かと来た事を匂わせた。
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