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第145話 人探し

「おっと、アレックスやないか? アンタもここに住んでタンかぁ?」 「ああ、バーテンダー。健ちゃんだっけ? 僕、左千夫の部屋に住み着いてるんだよ。 社長に内緒だよ。」  健ちゃんはわけ知り顔で 「社長はそんなん気にせえへんで。 大概、太っ腹なお人やさかいなぁ。 あんたら出来てたんか?」  マンションの食堂でバーテンダーの健一と、左千夫とアレックスのカップルが遭遇した。  せっかくだからと同じテーブルで食事する事になった。みんなこれが朝食兼昼食だった。  夜が遅い職業だ。 「健ちゃん、何で関東に来たの?」 「ああ、人探しや。 アレックスはフランスやったか? 何で日本に来たん?」 「お互い様だな。 僕は合気道を極めに来て、 師匠の息子に惚れてしまったんだよ。 フラれたけどな。」  健一はノンケだがゲイに理解はあると思う。 「この頃、左千夫はええ男になったと思うたよ。 恋人が出来たんやな。ええなぁ。」  左千夫は赤くなった。まだ自分はゲイではない、と思っていた。アレックスがレッスンしてくれているだけだ、と思っている。 「俺は女の子が好きです。」 「いつも指名してくれるすずちゃんなんか、ええなぁ。」 「健ちゃん彼女いないの?」 「ああ、ぎょうさんいてたけどなぁ。 みんな大阪に置いて来たんや。 こっち来る時は泣かれたでぇ。」 「ほんとかな?」  関東に来たわけを聞いてみると 「人探しや。 高瀬いう医者を探してんねん。」 「医者?何で?」 「ま、色々あるんや。」  いずれは陸の耳にも入るだろう。 世間は狭い。  旅行から帰って来た太郎は、徹司が全部知っていた事に驚いた。それでも、何も言われなかった。徹司にも美弦との関係に劇的な変化があったから。  その事で太郎と陸の関係にも少しだけ寛大になった。まだ少しだけ、だ。  徹司は自分が変化したことを感じていた。 意外な自分の変化に戸惑っている。

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