146 / 198
第146話 消える関係者
「ハナでーす。
ご指名ありがとうございます。
お客さんウチ初めて?」
「いやぁ、アンタがハナさんか?
ちょっと聞きたいことがあるんだよ。」
とっさにハナの顔色が変わったのを、吉田は見逃さなかった。
「何も知らないよ。」
「まだ、何も聞いてない。
あんた、高瀬医師を知ってるだろ?
かかりつけじゃないのか?」
ハナというホステスはかなり年を食っている。
持病があるらしい。
なぜか訪問診療の高瀬医師にかかっていた。
その高瀬医師が消えたのだ。
吉田は、やっと高瀬医師に辿り着いたところだった。それがこの所、連絡が取れなくなっていた。見つけた糸が切れてしまった。
「高瀬先生にかかってるんだろ。
定期的に薬を処方してもらってるんだよな。
高瀬先生に連絡したいんだよ。
教えてくれ。」
「あたしゃ何も知らないよ。」
(いや、こいつは何か知ってるな。)
「ドリーム事件って覚えてるか?」
「いやだよ、何も知らないよ。」
ハナはもうしばらく前から重症の糖尿病だった。インスリンの注射を一日4回。欠かせない。
飲み薬も7種類、処方されている。
投薬をやめられないのでかかりつけ医から離れられない。なぜか長い付き合いになった高瀬医師には身の上話をしていた。
夫が確定死刑囚で収監されている事を。
ある日、生活保護を受けたアパートで倒れている所を救急車で運ばれた。低血糖による昏睡だった。もともといい加減な性格できちんと薬を飲まない、飲み忘れてまとめて飲む、など自己判断でやっていた。
注射も忘れることが多く、ある日、忘れた分をまとめて注射して昏睡に陥った。
生保で医療費はかからない。入院だった。
高瀬医師にはこっぴどくお説教をされた。
ハナはどん底の暮らしで、たまたま知り合いの、場末の安キャバレーに出ていた。
「なんだ、ババァかよ。
チェンジチェンジ!」
客を怒らせる。店からも厄介者扱いされていた。
それでも、寂しくて夜の街に出て来る。
「人から聞いたんだよ。
あんた高瀬先生にかかってるんだろ。
薬が切れたらどうするんだよ。
高瀬先生に連絡取れるんだろ。」
吉田は食い下がった。
なぜか、吉田が探し始めたら,高瀬先生と連絡取れなくなったのだ。
訪問診療も滞っていると言う。
患者が困っているらしい。登録医師会から捜索願が出されていた。
ともだちにシェアしよう!

