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第159話 全部は見えない

 ついに秋吉が捕まった。 李星輝にも色々な思いが錯綜している。 「俺は日本で育った。C国人だが考え方は全く違うと思う。  この前のフェンタニル事件でも、結局有耶無耶にされて嫌な思いをしたが、今度のコンテナの子供の死体には、許しがたいものがある。」  故国は変わってしまったのか? 梁宋、梁大人も長きに渡ってここで華僑を束ねてきた。党員と言われるコンテナについて来る人間には,相容れない隔たりを感じる。 「こんな人々の国では無かった。 命を軽んじる傾向に、許しがたいものがある。」  コンテナについて来る党員と称する若者の価値観に疑問を感じる事ばかり、だった。 「一人っ子政策で甘やかされて育った歪みだろうか。日本で育てば、マシだったろうに。」  陸は元気だ。無事に終わった。解決ではない。 全く全部大団円ではないけれど、取り敢えず子供たちは救い出した。  それでも、あまりの闇の深さに打ちのめされている。  5年前に世間を騒がせた「ドリーム事件」 高瀬医師の遺した臍帯で、DNA鑑定が出来た。  胸糞な冷凍保存された子供の遺体は、わかった範囲で推定5才。DNA型は日本人だろう,と言う事だった。行方不明の赤ん坊がC国で育てられていたのは臓器を取るためだったらしい。  コンテナの遺体はみんな目ぼしいものは抜き取られていた。  特に心臓や腎臓。海外の富裕層が顧客になって、臓器売買は行われていたようだ。  あまりにもショッキングな事件に、C国では全くノーコメントだった。  あの別荘では、たくさんの警官が包囲して、秋吉とスタッフたちを一網打尽にしたはずだった。  しかし、党員と名乗る人間は見つからなかった。確かにアサルトライフルを持った兵士が数人いたのに。  そして、建物の背後の森には、山犬が食い荒らしたと見られる複数の遺体が発見された。 「複数? 身元はわかってるんですか?」 「いやあ、散逸していて全部は無理だろう。」  陸の母親の遺体がその中にある、と証言したのは秋吉だった。  秋吉は収監されているが、検察の求刑は死刑だろう,と言う意見と、精神鑑定を望む弁護士との争いになる。 「あくまでも個人的な犯罪ですよ。 国際問題にしないで頂きたい。」  警察の発表だった。世論も個人攻撃しかしない。誘導されている。  マスコミの報道はもっと酷かった。偏向報道に 明け暮れた。

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