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第161話 太郎
大人っぽくなった太郎を見ている。
たまたま通りかかった店の近くのカフェ。
何か友達と夢中になって話している。
信号待ちで停まった車の中から、見かけた他人の顔の太郎。
「あ、太郎。」
声をかけるのをやめた。青信号で車を出した。
心にかかる思いを、宥めて帰る。
太郎が年相応の友達といる所を見た。可愛い。
(あーあ、自分はずいぶん汚れてしまったなぁ。
あんな太郎を見ると気がつく。
俺の手は汚れている。)
今更、純粋になろうって訳じゃ無い。
ただ、眩しいだけだ。
帰ってきて、流星が珈琲を淹れるのを見ている。
「なあ、おまえの高校時代ってどんな感じ?」
「え、普通だよ。受験勉強してたな。」
「彼女とか、いなかったのか?」
「いたよ。ガールフレンドって感じだよ。
恋人じゃない。」
並んで珈琲を飲んでいる。
流星はカッコいい男だ。真面目で優しい。
「恋をした事はある?」
「そんなに強い気持ちになった事は無いな。」
(陸だけだ。言わないけど。)
珈琲を置いて抱き寄せる。
「禁欲的な苦しい顔を見せて。
欲しいけど手を出せないって顔。」
「何?何かのお芝居?」
「いや、いい。」
あの太郎の細い腰を掴んで抱き寄せた夜を思い出す。
「陸、この頃浮気しないね。
本気になる時がこわいよ。
太郎君に会いに行けば。」
「つらそうな顔をする流星が可愛い。」
「俺、欲張りだから、陸の全部が欲しいんだ。
全部じゃないなら、いらないよ。」
「俺を捨てるのか?」
流星も綺麗な男だ。手放したくはない。
太郎ともう少しだけ,恋をしていたい。
(欲張りだな、わかってる。
いつも命のやり取りでヒリヒリする生き方が好きなんだな。)
「流星、心配をかけるな、ごめん。」
「うん、気にしないで。
俺はいつもここにいるから。
必ず帰ってきて。」
ああ、こんなに優しい男はおまえだけ.
「陸のばか。」
笑ってくちづけした。
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