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第163話 街宣車

 あの日、ドンパチの後、警察の介入があり、騒ぎは、ひとまず終わった。  有名人が売買春していた事で大スキャンダルだった。ましてペドフィリアだったのだ。  ひとまず、静かになった現場にタケルたちは倭塾の特攻服姿で整列した。  ドロドロに汚れたトップク姿で、殴り合いで腫れ上がった顔をして「君が代」を歌った。 「やめなさい。静かにしなさい。 許可していません。」  警察車両からの呼びかけにも屈せず、静かに歌った。警察官たちも一緒に歌い始めた。  日の丸の描かれた街宣車の前で、涙を流して斉唱した。 「君が代、を聞くと涙が出るんだよ。」 「自分は日の丸を見ると、です。」 「私は、自衛隊か警察か迷ったんです。 どちらも国を守る。君が代を聞くと背筋が伸びます。」  警察官がまるで右翼だった。日本人の心の中に流れるものは同じだ。 見ると闇バイトの若者たちも涙を流している。 「なんか、党員だといってた連中は、捕まえないように上からお達しがあった。 なんだろうな?裏で牛耳ってた奴らじゃないのか?」  吉田も変な事を聞いてきた。 「逮捕されたのは、秋吉が臨時に雇った闇バイト ばかりだ。人民服の人は逮捕するな、と言われたそうだ。警察にも入り込んでやがる。」 「C国のスパイか?」 「なんとも言えないね。敵がデカすぎて。」  解散となって大半が「ジュネ」に流れてきた。 「俺、君が代を聴いたら倭塾にどうしても入れてもらいたくて。」  店の中に集まった数人の若者は 「今まで生きる目的を感じていなかった。 ニートでした。いつも東横あたりを彷徨いて、 その日その日を消耗させていた。  俺は何が欲しいんだ? でも、昨日の倭塾の人たちを見たら、すごく感動した。命をかけられるものがある。 羨ましかった。君が代斉唱がダメ推しでした。」  涙ながらに語る。タケルが肩を抱いてやる。 「タケル、未来ある若者を更生させて、良くやったじゃねえか。」  陸に褒められて、 「草葉の陰で若松さんと虎ニさんが喜んでくれますかね。」  若松は倭塾の創設者だ。暴走族を立派な目的を持った右翼に引き上げた男。新宿抗争で恋人の虎ニと共に亡くなった。虎ニは、三水会山辰組佐波一家の4代目を襲名する所だった。今は兄の龍一が襲名している。 「それにしても、トクリュウもC国に繋がるんだよなぁ。」

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