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第169話 16才
「太郎はいくつになった?」
「16才。」
「18才になったら,抱いてやるって言ってたのに、堪え性のない男だな、俺は。」
首に抱きついて
「そんな事、言わないで。こうしたかったんだ。」
汗ばんだ陸のうなじを舐める。
「陸は寂しくないの?
生きるって途轍もなく寂しいことだ。
俺、気づいちゃったんだ。
だからそばに置いて欲しい。」
「16才で人生決めるなよ。」
目の前に立たせてその綺麗な腹を撫でる。
固くて引き締まった16才の身体。
「華麗だな。」
「身体だったら陸の方が綺麗だ。すごい大胸筋。」
(この胸に抱かれるのは俺だけじゃないんだ。)
「いやだ!いつもそばに置いて。
離れたくない。俺が知らない間に死んじゃうかもしれないでしょ。」
新宿抗争で死にかかった時の銃創が腹に残っている。それを指でなぞる。
「ヤクザなんだ。こんな商売だ。
生き急いでるようなもんだ。」
太郎を抱きしめる。
「おまえまで生き急ぐ事はねぇよ。」
「こんなに好きなのに。やっと会えたのに。
明日なんか来なければいい。」
「ああ、そうだな。ずっとこうしていたい。」
また、ベッドの中で絡み合う。
(16才の青い好奇心じゃない。待てない。)
太郎は思う。何があっても、信じて待てるのが
大人、なのだろうか?
(流星はすごいな。
必ず帰ってくるって信じられるんだ。)
目の前にいるこの男は、繋ぎ止める事は出来ない。
「何で人は生きていけるんだろう?
こんな不安なのに怖くないのか?」
裸の身体を抱き寄せて、
「不安なのか?
俺が不安にさせてしまうのか?」
髪を撫でながらその目を覗き込む。
「ううん、陸が好き。」
それ以外に愛の言葉を知らない。
抱きついて背中のマリア観音に手を伸ばす。
「なんで、マリア様?」
陸には様々な思いがあった。
自分の罪深さの贖罪を求めてはいない。
(父親もそうだっただろう。)
死神と言われた掃除屋。
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