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第175話 もう一人
ドリーム事件の罪深さは、中絶ではなく臨月まで待って生ませた事にある。
十月十日(とつきとうか)自分のお腹で育てて出産しているのだ。産みの苦しみを乗り越えて情が湧くだろう。
あのコンテナ事件で警察は色めき立った。
猟奇的ながら、迷宮入りになりそうな事件がその尻尾を見せたのだ。
コンテナの子供の遺体は、臓器を抜かれていた。大事件だった。しかしなぜか、C国に潰された。情報は表に出ない。
「誰が、死にそうな子供をコンテナに閉じ込めて日本に送りつけたんだ?」
内部告発だったかもしれないが、C国の介入で無かったことにされた。
わかったのはC国も一枚岩では無い、裏切り者がいる,と言うことだった。
健ちゃんの妹のDNA鑑定は吉田のコネでギリギリ間に合ったらしい。今では荼毘に付されて鑑定は出来ない。遺骨はC国が全部持って行った。
ドリーム事件はアンタッチャブル。塩漬け、
触ってはいけない事件になったそうだ。
あかりさんは、そんな経緯を数日かけて手に入れただけだった。改めて、事件には関われない、と言う事がわかっただけだった。
「私のような人はきっと他にもいると思います。
戦ってくれる人を探します。」
「他の人は、知られたく無い過去、かも知れへんで。あんまり深入りしたらあかんのちゃいますか?」
吉田が怒っている。
「汚ねぇなぁ。政治家が絡んでんじゃねえか。」
「でも、この事件、調べれば調べるほどC国が関わって来て壁にぶつかる。」
陸は巡回の警官が置いて行ったチラシを見た。
「T警察のチラシだ。
みんなで止めよう国際電話詐欺、だって。」
「こんな田舎でも有るんだなぁ。」
チラシには、国際電話の発信、着信を無償で止められる、とある。
※➕国番号の付いた番号は国際電話です。
今の詐欺はみんな外国からかかって来ます、と書かれている。なるほど、ミャンマーやカンボジアからかかってくるのか?
チラシには危険ワードも書かれていた。
親族騙り、警察官騙り、クレカ騙り、役所騙り、
NTT騙り、総務省を騙るものまであるらしい。
これを電話で遠く離れた外国から,演じるのはすごい事だ。
「一昔前は人身売買は女性がほとんどだった。
売られて売春を強要される。
今は、リクルーターが日本人の男を欲しがる。
流暢な日本語をしゃべる男が高く売れるという。
「酷い話だな。使えなくなったら、臓器を取ってから山に捨てると言う。野生動物に食わせるとか。」
「ヤクザより悪質だな、チャイマ。」
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