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第176話 秋吉

 心理学の上では、感情的な愛着に基づく制約の感覚を持つ人々と、その感覚を持たない人々が確かに存在する。  普通、他の精神病は、患者自身が苦しんだり悩んだりする。サイコパスと言われる人は、本人に不快感は無い。気に病む事がない。  良心を持たない人は、自分の行動に満足している。秋吉という犯罪者は、まさにサイコパスだ。 自己満足のためなら労力を惜しまない。  秋吉はなんと、不起訴になり放免されている。 日本の司法の抜け穴か? 精神疾患で無罪。心身耗弱状態だったと言う事。  憲法39条はいつも問題にされて来た。 それで、秋吉のような人間が野放しにされて来た。警察が身辺にうろつこうものならすぐに訴訟をおこす。表現の自由侵害とか、名誉毀損とか声高に主張するのだ。  そもそも秋吉とは何者なのか? 大学の教員だった。そしてなぜか、医学者である、と言っていた。学歴詐称もありそうだ。  言葉巧みに大学に入り込み操ってきた。 その驚くべき博識。大学教員として誰もが認める知性と教養。本人の努力の賜物だった。  本気でその頭脳をつかえば、医者になることも可能だったのではないだろうか?  彼の興味は、人の精神の奥深く分け行っていくことだったようだ。  そして最初の被害者は、検見川零士。 その美貌に目をつけられた。  秋吉はいつも美しい男をヴィクチムに選ぶ。 彼の被害者であり、犠牲者だ。  自身の恵まれない容姿を嘆く代わりに美貌を憎むようになった。  今、解放されて一人の男に目をつけた。初めは復讐のために零士の身辺を洗った。  零士の周りには美しい人間が集まる。 商売がら、綺麗な男がたくさん周りを囲んでいる。  神出鬼没の秋吉は、零士以外にはそんなに顔を知られていなかった。  それでうまくジュネに潜り込んだ。 「いらっしゃいませ。」  案内した零士が嫌な顔をして、 「秋吉先生、何しに来たんですか?」 「いやぁ、私もいい男と酒が飲みたいのだよ。 零士も一緒に、どうだ?」  蓮が零士に耳打ちした。 (このお客さんはすごくお金を使ってくれるんだ。特上客だよ。失礼のないように気を付けてるんだ。) 「ああ、秋吉先生、俺、見てますからね。 変なことしないでくださいよ。」  秋吉はこの前見かけた太郎を狙っていた。 昔、太郎の両親は秋吉の教え子だった。  調べ上げている。

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