180 / 198

第180話 秋吉毅

 帰国してからは辛酸を舐めた。 10才で帰国。日本語が出来なかったのだ。  父親は周りに気を使って秋吉に日本語を教えなかった。いきなりの帰国。  C国を追われるように帰国したので準備が出来ていなかった。敗戦国の日本人が金儲けをしている、と言うのはひたすら隠匿しなければならなかった。戦後、反日意識は根強くなり、吊し上げの対象が日本人に移って来ていた。  日中ハーフの秋吉は、身の置き所のない気持ちで日本に帰って来たのだ。  日本ではC国を目の敵にする事はなかった。 一部に差別と偏見は残っていたが、C国共産党の締め付けの厳しさよりはマシだった。日本人のおおらかさに救われた。 (反日教育とは何だったのか?) 若い頃の秋吉はいつも疑問の壁にぶつかった。    成績の良い秋吉は、その地域で最も偏差値の高い進学校に入学した。  5年間でC国訛りは、少なくなって来た。 特進クラスに頭脳明晰な同級生がいた。 「秋吉君、すごいね。 一年でもう三年の教科書やってるんだ⁈」  声をかけて来たのは、同じ理系の進学を目指す彼だった。美しい彼。色の白い透き通るような皮膚。肌、というのは生々しくて直接的なので秋吉はいつも皮膚、という。彼の皮膚を触りたくて堪らない。 「6限が終わったら、自習室で一緒に勉強しないか?」 「ああ、いいよ。」  その彼、小風東馬(こかぜとうま)と接近出来た。ワクワクする自分の性癖がよくわからない。 「静かだね。集中してるの?」 「ああ、気になってた所、やっと理解出来た。 また、足りないけど。小風君は?」 「うん、続きは家でやるよ。 秋吉君もウチに来ない?」  高校から家は近いと言った。秋吉は電車に乗らないと帰れない。まだ、早い時間だ。 「おじゃましても、いいの?」 「ああ、ウチは親が店やってるから夜はいないんだ。」  学校の近くで何かの商売をやっているらしい。 繁華街だ。小風君の住まいはマンションだった。 上海に住んでた時の狭いマンションを思い出す。 小風君の家はタワーマンションだった。広い。  部屋に入るといきなり抱きつかれた。 初めてのくちづけ。 「わっ、何すんだよ⁈」 「秋吉は経験ないの? まだ、童貞? 普通、中学で経験するよ。恥ずかしい奴だな。」  吐き捨てるように言って、ソファに押し倒された。 「男同士で何やるんだよ?」 「エロい事に決まってんだろ。」

ともだちにシェアしよう!