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第180話 秋吉毅
帰国してからは辛酸を舐めた。
10才で帰国。日本語が出来なかったのだ。
父親は周りに気を使って秋吉に日本語を教えなかった。いきなりの帰国。
C国を追われるように帰国したので準備が出来ていなかった。敗戦国の日本人が金儲けをしている、と言うのはひたすら隠匿しなければならなかった。戦後、反日意識は根強くなり、吊し上げの対象が日本人に移って来ていた。
日中ハーフの秋吉は、身の置き所のない気持ちで日本に帰って来たのだ。
日本ではC国を目の敵にする事はなかった。
一部に差別と偏見は残っていたが、C国共産党の締め付けの厳しさよりはマシだった。日本人のおおらかさに救われた。
(反日教育とは何だったのか?)
若い頃の秋吉はいつも疑問の壁にぶつかった。
成績の良い秋吉は、その地域で最も偏差値の高い進学校に入学した。
5年間でC国訛りは、少なくなって来た。
特進クラスに頭脳明晰な同級生がいた。
「秋吉君、すごいね。
一年でもう三年の教科書やってるんだ⁈」
声をかけて来たのは、同じ理系の進学を目指す彼だった。美しい彼。色の白い透き通るような皮膚。肌、というのは生々しくて直接的なので秋吉はいつも皮膚、という。彼の皮膚を触りたくて堪らない。
「6限が終わったら、自習室で一緒に勉強しないか?」
「ああ、いいよ。」
その彼、小風東馬(こかぜとうま)と接近出来た。ワクワクする自分の性癖がよくわからない。
「静かだね。集中してるの?」
「ああ、気になってた所、やっと理解出来た。
また、足りないけど。小風君は?」
「うん、続きは家でやるよ。
秋吉君もウチに来ない?」
高校から家は近いと言った。秋吉は電車に乗らないと帰れない。まだ、早い時間だ。
「おじゃましても、いいの?」
「ああ、ウチは親が店やってるから夜はいないんだ。」
学校の近くで何かの商売をやっているらしい。
繁華街だ。小風君の住まいはマンションだった。
上海に住んでた時の狭いマンションを思い出す。
小風君の家はタワーマンションだった。広い。
部屋に入るといきなり抱きつかれた。
初めてのくちづけ。
「わっ、何すんだよ⁈」
「秋吉は経験ないの? まだ、童貞?
普通、中学で経験するよ。恥ずかしい奴だな。」
吐き捨てるように言って、ソファに押し倒された。
「男同士で何やるんだよ?」
「エロい事に決まってんだろ。」
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