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第183話 犬
秋吉は何も感じなかった。
小風君が酷い死に方をした事に、罪の意識など微塵もなかった。
秋吉は、思う。以前はこんなに冷たい人間では無かったと。自覚がある。
理不尽な事だらけの人間社会で生きていかなければならないのなら。
子供の頃、仔犬を与えられた。
李・富貴(リ・フーグイ)と名付けて、可愛がっていた。7才の頃だ。
その頃は、秋吉にも小動物を可愛がる心があった。いや、今でもなぜか、人間より動物が大事だ。一人っ子政策で周りもみんな一人っ子。
ペットはブームになっていた。
ある日学校から帰って来るとリ・フーグイがいない。いつも走って秋吉を出迎える可愛い姿が見えない。隣のおばさんが
「毅、お帰り。犬鍋をしたから食べにおいで。」
「えっ?」
「赤犬は美味いネ。」
「フーグイを食べたの⁈」
そう言えば昨日変なことを聞かれた。
「毅、犬好きネ。私も大好きよ。」
(好きって、食べるのが好きってこと⁈)
「嫌だあ!」
秋吉は泣いて泣いて泣いた。
この頃はまだ人間らしい感情を持っていた。
母親に泣きついた。母親は優しく慰めてくれた。
「私も手伝ったのよ、料理するの。
毛をむしってやったのよ。
おまえに尻尾の毛をとってあるよ。」
秋吉の手に乗せてくれた。茶色い毛。
赤犬は美味いって言ってた隣のおばさんの言葉を思い出した。今ならキッチリ復讐しただろう。
その頃はまだそんな事も思い付かなかった。
帰宅した父親に泣きながら話した。
「ああ、C国では普通の事なんだ。
日本では考えられない。可哀想だったな。
フーグイは家族なのに。」
涙を流して抱きしめてくれる父親に、少しは慰められた。
「僕は日本人だ。お父さんの血が流れている。
犬を食う国は嫌だ。」
自覚したのだった。サイコパスと言われる秋吉だが、小動物にはものすごく優しい。
殺処分ゼロを目指す保護団体には、積極的に寄付をして来た。
出来れば里親になって保護動物をお迎えしたい、と思う。
(人の死ぬのは悲しくない。
犬や猫が死んだら悲しい。)
顔色も変えずに人を死に追いやる事ができる。
どこか、病んでいる。
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