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第186話 幸せ

 秋吉が心穏やかに過ごしたのは、後から思うとこの短い期間だけだった。  後の人生に安らぎはなかった。この家での犬と猫との交流だけが秋吉の大切な時間だった。  警察に追われ、逃げ隠れる暮らしの中で、実家に帰って来るひとときだけが穏やかな時間だった。警察はそれを知っていて泳がせていた。    サイコパスだと自己分析した医学生の秋吉が、何も手を汚さない交友関係を築いたのは、この時期のタカシとの間、だけだった。  これから、平気で男をレイプしたり、売り飛ばしたりして行くのだ。極悪非道な犯罪者として追われる身となっても、犬と猫の世話は続けていた。ほとんど父親に頼んでいたが。 「タケシっ!」 タカシが走ってきた。抱きついて 「オレ、ヤバいかも。」 「なんだ、どうした?」 「オレ、漏らしちゃった。 四年生になるのに、恥だぁ!」  半べそで抱きつく。秋吉は焦った。その華奢な身体を受け止めた。 「登り棒に抱きついてたら気持ち良くなって ちんちんを擦り付けたらなんか出た!」  パンツの前が濡れている。 「そのまま来たのか? 気持ち悪いだろ、風呂に入れ。」  そう言って風呂で洗ってやった。下着に白いものが溜まっていた。精液だ。 「おまえ、大人になったんだな。 おめでとう、精通ってやつだよ。 気持ちよかっただろう?」 「えっ?病気じゃないの? オレ、死ぬのかと思ったよ。」 「ああ、死ぬほど気持ちよかったか?」 「タケシもこんな事あるの?」 「ああ、そうだよ。毎晩抜いてるよ。」  ホッとした顔をしているタカシを抱き寄せてくちづけした。抵抗しなかった。 「こんな事するのダメだよね。 お母さんに叱られる。」 「内緒にすればいいよ。 男ならみんなやってるよ。」  股間のものがまた、硬くなってきた、と秋吉に擦り付ける。丁寧に脱がせて秋吉の大きいTシャツを着せられたタカシの可愛いペニスを口に含む。 「わあ、汚いよ。オシッコついてるよ。」 「大丈夫。美味しいよ。また硬くなってきた。」  口でやるのは久しぶりだ。あの小風にやらされて以来だった。  苦い思い出を払拭して幸せな気持ちに変えてくれるタカシが可愛いと思った。  この上なくしあわせだった。

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