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第189話 学生

 田舎の大学に教員として何とか潜り込んだ。 口が達者で表面的な魅力がある。容姿はともかく、カリスマ性がある。病的な嘘にみんな騙される。そうやって秋吉は生きてきた。  そして零士と出会う。出会いは零士が高校生の時にさかのぼる。 「綺麗な男だ。是非とも手に入れたい。」  医学博士という触れ込みで大学に入った。大学附属病院の心療内科で、外来患者を診ていた。  不貞腐れた顔の美しい男が入って来た。 検見川零士。母親が付き添っている。 「問題になっているのは何ですか?」 「この子の女性関係なんです。」  零士と名乗った青年は思わず見惚れる美しさだった。母親の話を聞くと 「学校に行けないのです。」  零士があまりにも女子に騒がれて、授業が出来ないと苦情が来ていると言う。  そもそも零士は、言い寄ってくる女子全部と関係を持った、と言うのだ。 「心療内科に来るような事なのですか?」 「ええ、おかしいですか?」  零士が誰とでも関係を持つ、と言う事が非難の的なんだそうだ。  零士に抱かれた女子は、もう自分だけのものになった、と勘違いする。  零士は隠さないから、他の女子も知るところとなる。独占したい女子同士の争いが、激化しているという。  女子たちの親が出て来て 「検見川零士は頭がおかしい。 女たらしも度がすぎる。」  と言う事で診察してもらって来い、と言われてここに来たと言う。  別室でじっくり話を聞いた。 本人はどうしたいのか?何を考えているのか? これからどうしたいのか?  秋吉は零士の美貌に心を奪われていた。 何とか、解決するための診断をした。 「君は休学して入院しなければならない。 病院が嫌なら、私のウチで療養するのはどうかな?」  おかしな提案だった。零士には秋吉の魂胆がわかった。今までも、こんな男に誘われた事がある。結局この医者のオモチャにされるのだろう。  母親はおめでたい頭をしている。医者とか教授とかの権威に弱い。 「お母さん、どうですか。 私のウチで療養させては?」  頭がお花畑の母親は、医者の言う事を信じた。 ついた診断名は「サチリアジス」だった。  男性の色情狂。後に精神科医の佐波龍一に論破されるが、この時は誰もが診断名を信じた。  零士は魅力的で、単にモテているだけだった。 それなのに精神病と診断された訳だ。  秋吉のマンションで弄ばれる2年間だった。 零士の葛藤が零士をミステリアスに見せた。

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