189 / 198
第189話 学生
田舎の大学に教員として何とか潜り込んだ。
口が達者で表面的な魅力がある。容姿はともかく、カリスマ性がある。病的な嘘にみんな騙される。そうやって秋吉は生きてきた。
そして零士と出会う。出会いは零士が高校生の時にさかのぼる。
「綺麗な男だ。是非とも手に入れたい。」
医学博士という触れ込みで大学に入った。大学附属病院の心療内科で、外来患者を診ていた。
不貞腐れた顔の美しい男が入って来た。
検見川零士。母親が付き添っている。
「問題になっているのは何ですか?」
「この子の女性関係なんです。」
零士と名乗った青年は思わず見惚れる美しさだった。母親の話を聞くと
「学校に行けないのです。」
零士があまりにも女子に騒がれて、授業が出来ないと苦情が来ていると言う。
そもそも零士は、言い寄ってくる女子全部と関係を持った、と言うのだ。
「心療内科に来るような事なのですか?」
「ええ、おかしいですか?」
零士が誰とでも関係を持つ、と言う事が非難の的なんだそうだ。
零士に抱かれた女子は、もう自分だけのものになった、と勘違いする。
零士は隠さないから、他の女子も知るところとなる。独占したい女子同士の争いが、激化しているという。
女子たちの親が出て来て
「検見川零士は頭がおかしい。
女たらしも度がすぎる。」
と言う事で診察してもらって来い、と言われてここに来たと言う。
別室でじっくり話を聞いた。
本人はどうしたいのか?何を考えているのか?
これからどうしたいのか?
秋吉は零士の美貌に心を奪われていた。
何とか、解決するための診断をした。
「君は休学して入院しなければならない。
病院が嫌なら、私のウチで療養するのはどうかな?」
おかしな提案だった。零士には秋吉の魂胆がわかった。今までも、こんな男に誘われた事がある。結局この医者のオモチャにされるのだろう。
母親はおめでたい頭をしている。医者とか教授とかの権威に弱い。
「お母さん、どうですか。
私のウチで療養させては?」
頭がお花畑の母親は、医者の言う事を信じた。
ついた診断名は「サチリアジス」だった。
男性の色情狂。後に精神科医の佐波龍一に論破されるが、この時は誰もが診断名を信じた。
零士は魅力的で、単にモテているだけだった。
それなのに精神病と診断された訳だ。
秋吉のマンションで弄ばれる2年間だった。
零士の葛藤が零士をミステリアスに見せた。
ともだちにシェアしよう!

