191 / 198

第191話 心の支え

 秋吉の太郎に向ける執着は、長い間続いた。 出産と同時に母親の美咲が亡くなった事も痛ましく心にかかった。  初めて心を通わせたタカシと、引き離された寂しさを太郎の存在が埋めてくれた。  表立って何かを仕掛ける事は無かった。ただ、成長を遠くから見守りたかった。  周りをうろついて不審がられる事もあった。 陸と太郎の関係が深くなって行くのを自分の事のように妄想した。丸ごと全部自分の体験のように感じて、太郎を他人とは思えなくなっていた。  家に帰ると犬と猫が走って来て膝に乗る。この時だけは秋吉の頭が正常になる。  心を癒してくれる。ささくれだった心の棘を一つ一つ溶かしてくれた。  心の中にあるC国に対する憎悪が消えて行くようだった。  陰から見守る太郎と陸の恋が、少しずつ進展して行くのは見ていても気持ちいい。  膝に乗ってくる猫は大切な存在で、彼らの幸せを願う。快適に暮らせるように。  孝平に無理強いされたオークション場での子供たちには何も感じないのはなぜか?  客たちが棒で突いて虐待しても、止める気がしない。これが犬や猫だったら胸が張り裂けそうなのだ。 (われながら、この気持ちは何だろう?) 秋吉が極端に人間を嫌うのは何故? 自分なりの考察は 「人間は言葉を話すからだ。」 言葉が傷付けてくる。秋吉は子供の頃からひどい言葉で傷つけられて来たのがトラウマになっている。こうして、人を傷つけても平気な人間、秋吉、が出来上がった。  もともと無理がある児童ポルノの斡旋。 それでも闇で顧客が絶えない。あの堂島孝平の穴だらけのビジネスはすぐに足が付いた。  孝平は気が付いていなかったが、バックにはドラゴンがついている。彼らは堂島孝平の何倍も上手だ。そして大きい組織だった。  日本のヤクザ堂島鉄平は、兄、堂島孝平一人を破門にすることで納まったと思っている。  C国は藤尾集蔵を引っ張り出したかったようだ。軽はずみに藤尾さんを引き出す事の恐ろしさを知らないのだ。    秋吉がその酷薄さを深めたのは、相次ぐ犬と猫たちの死、だった。  もう20年近く生きたのだ。ペットとしては長生きだった。老犬と老猫たちを手厚く看護し、看取ったのは,父親だった。

ともだちにシェアしよう!