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第192話 横顔
横顔を見ている。晴れた秋の日。
程よく乾いた公園の草の上に寝転ぶ陸がいる。
その横顔に見惚れている。
「そんなに俺の顔、珍しいか?」
肩に抱きついて自分も寝転んだ太郎が
「ふうん、草の匂いがする。」
陸の厚い胸に覆いかぶさって見つめる。
どこまでも青い空。雲が浮かぶ。
「大きな手だ。空手やってたんだね。
ゴツゴツしてる。」
太郎の手を取って
「おまえのは竹刀を握る手か?デカくなった。」
笑ってキスをする。
「ずうっと雲を見てると、空の向こうに何か、
世界が広がってるように見える。
そこに行けるような。
自分の周りに目を戻すと、あまりのちっぽけさにクラクラするんだ。」
太郎は現実に戻る違和感をうまく説明できない。
その大きな手でがっしりと捕まえられて、ずっとこのままでいたいと思う。
身体を起こした陸が眩しい。胸に飛び込んで甘える。
「陸ってハンサムだね。」
「イケメンって言うんじゃ無いのか?」
「わ、ナルシー。
違うよ、イケメンって軽いじゃない?
もっとすごいの。」
じっと見つめられてテレる。
髪に指を突っ込んで
「髪伸びたな。坊主はやめたのか?」
「うん、ガキっぽいからね。」
たしかに大人の雰囲気が出て来た。
いつまでも少年でいていいのに。
「17才になったんだ。あと一年。
そうしたら、陸と暮らす。」
「えっ?そんな約束したか?」
「やだっ!一緒に暮らすんだ。」
陸は一瞬、流星の事が頭に浮かんだ。
(誰も知らない南の島で、二人きりで愛し合って暮らす。そんな夢を見る。)
汚れの無い太郎と、日々ヤクザな仕事に追われている陸と。現実はあまりに厳しい。
あれから、誘拐事件も少なくなったようだ。
臓器売買も児童ポルノも、表立った話題に上らない。それは問題が解決したからではなくて、地下に潜ったって事だろう。もっと根深い問題になっている。
相変わらず、東南アジアに拠点を持つ詐欺グループは後を絶たない。
店に戻ると左千夫が話があると寄ってきた。
「あの、陸さん、じゃ無かった若頭。
変な事聞いたんですが。
俺の親父の事です。行方不明の。
かしらが何か知ってるってメールが来たんで。」
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