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第201話 張大兄

 遅れて入って来た張大兄は、王天尊とサラッと目配せしただけで簡単に見送った。  二人のつながりはあまり無さそうだ、と思わせる。これも手なのか?  張大兄は、年令のわかりにくい風貌だった。 何才だろう? 「内輪の話に、張さんは何か関係があるのですか?」  失礼な感じで陸が口火を切った。 「私はCドラゴンの張と言います。 あなた方の気になっている秋吉の後見人とでも、いいましょうか。」 「秋吉先生には散々振り回されて来ました。 ここにいる零士は被害者の一人です。 今はどこにいるのか?何か画策しているのでは? と気になっているところです。」  稀代のサイコパスと言われている秋吉だった。 その後見人とは? 「秋吉先生も、もうかなりのお年でしょう? 今はどこで何をしているのか、気になる所ですが。」  張大兄はニコニコ笑って答えた。 「彼は孤独な男です。 覗きが趣味な無害な奴ですよ。」  それだけでも充分有害だ、とみんな思ったが。 「子供の頃から、彼を見て来ました。 彼の父親と私は親友と言えるでしょう。 お互いに故国の変わりように振り回されて来ました。秋吉毅は、日本人とC国人の混血です。  父親が日本国籍に固執しましたから、辛酸を舐めてきたのです。」  みんな、妙に納得した。媚中で、党員にも顔が利く。 「彼は、祖国になじめませんでした。 心優しい男です。動物を可愛がる。」  一同、驚きを隠せない。人間の子供に対する酷い仕打ちを知っているから。  吉田が 「驚くのも無理ないな。 秋吉は人間に冷たいんだ。」 「これだけは言える。 毅は臓器売買に加担してはいない。 それで党から、裏切り者と思われてしまった。」  国家機密に関わるから、と張は言葉を濁した。 「毅が長年愛してやまない青年がいます。 皆さんもよくご存知の青年です。  何かするのではありません。 遠くから眺めているだけでいい、と本人が言ってました。今まで愛したものとことごとく引き離されてきたのです。   

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