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第3話 利害の一致
俺の告白に、ポカンと呆けた雅人に対し、飾音はすぐに我に返ったようだ。
「ドM……」
そう一度呟くと、俺を質問攻めにする。
いつもは雅人と俺が馬鹿話しているのに相槌を打つのが通常運転だから、珍しい。
こちらとしても秘密を暴露してしまえばもうあとは気が楽なので、飾音から聞かれたことに対して俺は包み隠さず説明した。
デートの時など普段からいじめて欲しいという願望がある訳ではなくて、ベッドに入るといじめられたいという願望が強くなること。
自分が今まで付き合った女の子はノーマルか同じM寄りの子が多く、サドっ気のある子と出逢えたことがないこと。
どうしても性行為中に違うと感じてしまい、それが相手にも伝わってしまうのか、長続きしないこと。
セックスなしの極めて清いお付き合いというものもしたことがあるが、それはそれで不安になった女の子から別れ話を切り出されてしまうこと。
「女って、圧倒的にMのほうが多いんだよ。そんな女の子からすれば男を縛ったって楽しくないしな。お願いしたこともあるんだけど、女の子は戸惑うだけで結局お互い満足できないし」
俺がぶつぶつとずっと抱えていた悩みを吐露すれば、雅人は大きく何度も頷いた。
「俺、要領の良い彬良がなんで彼女と長続きしないのかずっと不思議だったんだけど、そういう理由だったのか……!!」
「彬良。ドM願望って、どういうレベル? 蝋燭垂らされたいとか首絞められたいとか、そういうレベル?」
ぶっこんで来るな、オイ。
飾音は結構明け透けな質問を真面目な顔で突っ込んできて、俺はレモンサワーをもう一本流し込んだ。
素面じゃ流石に無理だ、もっと酔いたい。
「いや、そこまでではないかな。緊縛とかスパンキングは興味あるけど、危ないプレイとか痛すぎるのは嫌だ」
「女の子にペニバンで攻められるようなプレイは?」
「ペニバン?」
「ペニスバンド。女が男の尻を攻める時に使うグッズ」
「うーん……考えたことないけど、許容範囲かな」
「へぇ……」
「ちょっと俺、トイレ」
「足ふらついてるけど、大丈夫か?」
「へーきへーき」
雅人がフラフラしながら席を立つ。
本当に平気かよ。
少し心配しながらその後ろ姿を見送っていると飾音が身を乗り出して、話の続きをしだした。
何でもポーカーフェイスな飾音が珍しい。
基本的に俺の話には興味を持ってくれるけど、まさかこんな猥談に興味を持つとは思わなかった。
「……彬良、提案なんだけど」
「ん?」
「俺はどちらかといえばSだから、彬良を性的に満足させられるかもしれない。一度、試してみないか?」
「……は?」
思わずポカンと、呆けた顔で飾音を見る。
試すって何を?
「……飾音、好きな子、じゃない、好きな奴いるんじゃなかったっけ?」
そいつに童貞捧げなくて良いんだろうか。
片思い歴長そうだけど。
「いるけど、最近経験は積んでおきたいなとは思ってて。彬良は相性のイイ子が現れるまで、俺は好きな相手を満足させるようなプレイを出来るようになるまで、お互い欲求不満を抱えたままより良くないか?」
良いのか?
しかし、男相手に、というのは全く考えたことがなかった。
恋愛対象にはならないだろうけど、言われてみれば確かに男のほうが、Sのやつを見つけるのは難しくないだろう。
「まぁ……試すのはタダだし、な」
相手が飾音というのは恥ずかしすぎるが。
いや、むしろ飾音よりも知らない男相手のほうが……と思ったところで、俺の考えていることなんてお見通しらしい飾音に釘を刺された。
「彬良、知らない相手は病気持ってるかもしれないし、安全なプレイをしてくれるかどうかもわからないから危ない」
「……それもそうだな」
ホテルで縛られた上、財布を持って逃げられでもしたら目も当てられない。
従業員に見つかった時に、どんな顔をすればいいんだ。
警察沙汰になんて、できやしない。
「俺なら絶対、彬良の嫌がることはしないから」
「ん。わかった、考えとく」
俺が気楽に返事をすると、飾音はむぅ、と不満げな顔をした。
たぶん、不満げだとわかるのは俺と雅人だけだろうけど。
「いや、明日になったら彬良は酔ってたしって俺の話を冗談ですませるだろ? お互い明日は仕事休みだし、今日、これからやろう」
「ええー」
やろうって言って、直ぐに出来るものなのか?
俺は酔いの回った頭で一生懸命考えた。
確かに、飾音の言う通り明日は休みだ。
逆に、酔ってたし、ですませられる間にお試ししてしまったほうが良いかもしれない。
「わかったよ」
俺が頷くと、飾音は嬉しそうに笑った。
俺は確かにこの時、酔っていた。
だから、想像もつかなかったんだ。
飾音との行為にハマってしまうかもしれないことも。
一度ハマったら、そこから抜け出してまた女の子とお付き合いをするなんて、出来るわけがないことも。
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