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第4話 いつもと違うお泊り *
その日俺と飾音は、雅人をタクシーに押し込んだあと、二人で飾音の家に向かった。
泊まっていけと言われたので、途中のコンビニでアイスとパンツ、歯ブラシなどを購入する。
「この寒い中、よくアイスなんて食えるな」
高校時代から俺が好んで食べているスパウトパウチのアイスをちゅうちゅう吸いながら食べているのを見ながら、肩の触れる距離で飾音は微笑んだ。
今までは全く気にしたことがなかったのに、腕や肩が飾音に当たるたび、どきりと胸が鳴る。
「寒くてもアイスは変わらず美味しいけどな」
飾音との距離感は今まで通りでいいのだろうか。
いや、多分今まで通りでいいんだろう。
飾音の恋愛対象が男と知ったからといって距離をとれば、きっと気にさせてしまう。
話してくれて嬉しかったのに、話すんじゃなかったと思われたくはない。
俺は今までと同じ距離感で、アイスの先端を差し出しながら「飾音も食う?」と聞く。
「ん」
「なんだよ、お前も食うのかよ」
なんの躊躇も遠慮もなく飾音はちゅうう、とアイスを吸い込み、俺は思わず笑って突っ込んだ。
「彬良がくれるものなら、何でも食うよ」
多分、深い意味はないんだろう。
今までも、飾音がこうした男前?な発言をすることは何度もあった。
なのに、今この瞬間はなぜか違う意味にとれてしまって、再び胸が早鐘を打つ。
なんで俺が、親友にドキドキしなきゃならんのか。
「俺の味覚は随分と信用されてんだな」
「はは」
味覚を信用しているわけじゃなくてどんな味が好きなのか興味があるだけだよ、と言いながら、飾音はマンションのオートロックの鍵を開ける。
普段は何も感じず開かれた自動ドアをくぐり抜けて行くのに、俺の足はその前で一度ストップした。
……本当に、飾音は俺と性癖を満たすようなエロいことをする気なのだろうか。
「彬良?」
「あ、いや、うん」
動揺を悟られたくなくて、曖昧に笑う。
ここをくぐれば、経験をしたことのない甘美な世界が待っている、かもしれない。
でも、それに親友を巻き込んで、本当にいいのだろうか。
「……怖い?」
「え? いや、違う」
俺と雅人しかわからないであろう、不安そうな顔で飾音に問われて、俺は咄嗟にかぶりを振った。
「相手が飾音なんだから、怖くなんかねーよ」
それは本当だった。
飾音が俺を傷つけるわけがない、と、それだけはなぜだか断言できる。
ホッとしたような顔をした飾音が、スッと俺に手を伸ばす。
まるで、彼女をエスコートする彼氏のようだ。
俺は苦笑いしながらその手を上からパチン!と軽く叩くと、迷いを捨てて自動ドアのレールを跨ぐ。
「期待と不安、半々ってとこ」
「不安?」
「親友に裸を見られるの、流石に恥ずかしい」
「あー、なるほど」
誰のちんこがデカイって話で盛り上がった時代はとうに終わっている。
俺たちは、自分たちの意思で、裸を見せ合うような行為をするのだ。
「おじゃましまーす」
相変わらず清潔だけど生活感のない飾音のワンルームにお邪魔する。
ごちゃごちゃとした俺の部屋とは大違いだ。
この綺麗好きが災いして、飾音の部屋はしょっちゅう俺たち三人の飲みの場として利用されている。
ただし、俺と雅人以外の人間がいる時は絶対に開放されることはない。
帰宅したばかりの部屋は冷え冷えとしていたが、飾音がリモコンを操作してすぐ、暖かい空気が部屋を満たした。
「飾音、さっきのコンビニで酒を買い足しておいたけど、もう少し飲むか?」
俺は買った物の入ったエコバックをローテーブルに置いて、飾音に背中を向けるかたちでスーツを脱ぎながら声を掛ける。
うわ、なんだこれ。
飾音のほうを見ることが出来ない。
女の子とのセックスなんて何回もしているのに、緊張しているみたいだ。
飾音は慣れた手つきでソファの背もたれに掛けた俺のスーツをハンガーにかけながら返事をする。
「もう酒は禁止。途中で気持ち悪くなったりしたら可哀想だし」
「わかった。じゃあコレ、冷蔵庫に入れさせて」
飾音の返事も聞かず、飾音用のビールと自分用のレモンサワーを勝手に冷蔵庫の中に放り込む。
「彬良、服脱いで」
「えっ?」
いきなり始まったのかと思ってやや驚きながら振り向けば、泊まらせて貰う時に俺がいつも借りる上下のスウェットを飾音は手にしてこちらへ差し出していた。
「スーツ。皺になるだろ」
「あ、ああ、そっか。うん」
気恥ずかしさを紛らせるために、大胆にシャツやスーツパンツを脱ぐ。
パンツ一丁になっても、部屋に充満した空気のお陰で、全然寒くはなかった。
「風呂はどうする? 一緒に入るか?」
「男二人で入るような広さないだろ」
今まで一度も言われたことなんてないのに、当たり前のように一緒に入るかと聞かれて内心驚いた。
内心の動揺に気づかれないように、なんでもないことのように取り繕って返事をする。
「それもそうか」
それは上手くいったのか、飾音はそう言いながらスウェットをベッドの上に置いて風呂場へ向かった。
しかし、シャワーなんて浴びれば、酔いが覚めて頭も冴えて帰りたくなってしまうかもしれない。
そう思いながら、飾音が置いて行ったスウェットに手を伸ばした。
「え、うわっ!」
いつの間に戻って来たのか、スウェットに手を伸ばした俺の手首を掴んだ飾音は、そのまま俺をベッドに押し倒す。
「ちょ、飾音……っ!」
「ネクタイで縛るから、力を入れないようにしろよ」
飾音は俺のパンツを鷲掴んで引き摺り下ろしながら、うつ伏せに倒れた俺の上に馬乗りになる。
俺の両手を後ろ手に回すと、そのまま恐らく本人が言っていたネクタイと思われるもので括りだした。
飾音の本気が伝わってきて、ゴクリ、と喉が鳴る。
素っ裸になって拘束された俺と、まだスーツを着たままの飾音。
まるで主従関係を表しているようで、勝手に興奮してしまう。
不安なんてもうなくて、緊張と期待だけが膨らんだ。
「彬良」
「あっ……」
ぐっと髪を引っ張られて、顔を上げられた。
男と……飾音と、キス。
キスも初めてではないのに、ドクドクドクドク、鼓動がうるさい。
「もっと口開けて」
「ん……、ふ……」
飾音は激しく舌を絡めてきて、俺はそれに応えるだけで精一杯だ。
鼻で息をしていても、酸素ごと貪り食われているようで、苦しい。
その苦しさが、嬉しくて、そして気持ち良い。
お互いの口内を散々貪りあうと、飾音は俺を横向きにコロンと転がし、元気になった俺の息子をおもむろにむんずと掴んだ。
「あ……っ!」
「キスだけで興奮したのか。もう先端濡れてる」
それは、飾音とのキスが気持ち良かったからだ。
「しょうがないだろ。……ところで飾音って本当に童貞?」
「どういう意味?」
「ええと、その……キスが上手かったからさ」
俺がそっぽを向いてそう言うと、飾音は一瞬動きを止めた。
「……それなら良かったよ。散々頭の中でシミュレーションした甲斐があったな」
三人でAV観賞していた時も、基本俺と雅人が盛り上がるだけで全然興味を示さなかったのに。
「むっつりだなあ」
「ははは、そうかも」
初めてが俺で良かったのかな、と思った時、飾音が俺の息子をゆっくりと扱きだして、俺の意識は下半身に集中した。
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