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第16話 拡張訓練 **

俺はアナルプラグを片手に、ごくり、と喉を鳴らす。 それに気づいたらしい飾音は『怖い?』と俺に尋ねた。 その言葉に恥ずかしくなって、俯いて首を振る。 怖い、どころか期待をしてしまっている自分は、飾音の目に浅ましく映っていないのだろうか。 『怖くないなら良かった』 飾音はホッとしたように言うと、『プラグかお尻にローション塗ろうか』と指示してくれる。 黒いシリコンのプラグにローションをたっぷりと垂らす。 プラグがローションでてらてらと光を反射すると、一気に卑猥な物に見えた。 『それじゃあ最初はその細い先っちょで、尻穴をゆっくりとクポろうか』 「……はい」 『俺にしっかりと見せながらね』 「わかっ……わかり、ました」 パソコン越しなのに、飾音の視線を痛いほど感じる。 俺はしっかりと両足を開き、元気になっている息子の横を素通りした手の人差し指と中指で、エロく見えるように尻穴をくぱぁ♡ と割り開いた。 「んん……っ」 くぷ、くぷ、とプラグの先端を少しだけ入れたり出したりしてみたが、そこまでの違和感はない。 『いいよ、そのまま……』 「ぁ、はぁ……♡」 ローションが滑りを助け、驚くほど大胆に、俺は夢中になってプラグの出し入れをする。 正直言って、気持ち良さが、足りない。 飾音にしてもらった時は、もっと気持ち良かったのに。 『……っ』 「飾……音ぇ♡」 傍にいないのに、思わず名前を呼んでなんとかしてくれと視線を投げた。 『一番奥まで入りそう?なら、一度全部埋めて……そう。そして、そこから先端をちんぽ側の壁に当てるようにしながら引き抜いて……そう、上手』 「あ♡ ああ、ンッ……♡♡」 『この前の気持ち良かったとこ、見つけようか』 「はい……っ♡♡」 そのプラグの取っ手を持って、俺は一番奥まで突っ込む。 最も太い部分も一瞬で挿入し、尻穴が押し広げられている感覚がはっきりと残った。 そのまま壁を押すようにして少し引き抜き、再び最奥まで突っ込む。 最初にしていたのが入り口部分の拡張がメインだとすると、今は内側の探索だ。 飾音の指を思い出しながらプラグを懸命に動かせば、ほんの少しだけ気持ち良いところを掠めた気がした。 「ァア……っ♡♡ ……あーッッ……♡♡」 『先走りが凄いね、エロ……』 「飾、音ぇ、ちょっと、もう無理、かも……」 『無理? お尻が痛い?』 「ちが、その……」 限界だ。 俺はプラグから手を離して、ベッドに寝転ぶ。 ……疲れた。 自分の尻穴をこんなに弄ったことはなくてわからなかったが、結構な重労働だった。 俺の足の向こう側から、飾音のふふ、と笑った声が聞こえる。 『そのアナルプラグは本来ピストン用じゃないからね。それは拡張用だから、今の使い方で本当は正解』 「……え?」 俺は怠い身体に鞭を打って、飾音のほうにごろりと上体を傾ける。 『これから毎日、そのアナルプラグを二、三時間お尻に埋めてね』 「え? 今みたいな、出し入れはしないでいいの?」 『してもしなくてもいいけど、今回は俺が見たかったからお願いしちゃっただけ』 「そうなんだ……」 『前立腺を刺激するタイプのものは、他にあるから』 「ん、わかった」 俺は寝転がったまま頷く。 『それじゃあ、そろそろ吸引機も外そうか』 「うん」 きゅぽ、と両胸に装着していた吸引機をゆっくりと取る。 「ン……っ♡♡」 乳首が空気に晒された。 それだけでぞくりとした痺れが背中に走って、身体が震える。 吸引機を貼り付けていた部分が赤くなって、乳首は勃ち上がったまま、普段よりずっと敏感にシーツの擦れを感じていた。 『乳首気持ち良いね』 「……うん。……あのさ、飾音。それで、その……」 俺は思わず上目遣いで、強請るように飾音を見る。 『ちんぽ弄っちゃ駄目だよ、彬良』 さくっと笑顔で言われ、俺は肩を落とす。 やっぱり駄目か。 「……なんでわかった」 『そりゃわかるだろ、そんな目で見られたら』 でも、黙って勝手にやらないところが彬良のM資質の素晴らしいところだよね、と飾音は続ける。 なんかよくわからんが、褒められた。 『これから、彬良の射精管理するのは俺だから』 「射精管理?」 なんでそんなことを飾音がするんだ、と不思議に思って首を傾げると、飾音は軽く目を瞬く。 『射精管理って、SMプレイとしてはごく当たり前だからねぇ』 「そ、そうだったんだ」 どうやら俺の性知識は、童貞の飾音に及ばないらしい。 少し恥ずかしくて、言葉を濁す。 『イきたいのにイかせないとか、イきたくないのにイかせるとか、最高に支配されている感じするでしょ? 彬良は俺に、単なるえっちの相手になって欲しいわけじゃないんだよね?』 「えーと……はい、ソウデス」 『俺にどうして欲しいんだっけ?』 じっと見られて、俺は返事をするために、口を開ける。 なのに、言葉が出てこない。 俺は、飾音にどうして欲しいんだ? 虐めて欲しい。 弄って欲しい。 支配して欲しい。 甘やかして欲しい。 そういうのって、なんて言えばいい? パソコン越しの飾音の視線は、ただひたすら優しかった。 俺が何を言おうとも、絶対に受け入れてくれるだろうという確信。 「俺の……ご主人様に、なって欲しい」 飾音が本命の奴と、結ばれるまででいいから。 少しだけ、夢を見させて欲しい。 俺が言葉を絞り出すと、飾音は綺麗に口角を上げて、微笑した。

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