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第21話 待ちに待った日 *

「ちょ、ちょっと待っ……んんッ」 玄関の鍵を閉めるなり、激しく口付けられた。 舌を吸われて、絡め取られる。 ビールの苦味とレモンサワーの酸味を交換すれば、息子が反応してパンツの中で身を硬くした。 「ん、はぁ……っ」 長く短い時間、息もつけない程のディープキスを交わしながら飾音に上着を脱がされる。 流れるような、それでいて急くような仕草でワイシャツのボタンを外され、冷たい掌が俺の素肌に触れた。 糸を引きながら名残惜しそうに口を離した飾音は、ぴん、と俺の乳首を軽く弾く。 「あッ♡」 「もう勃ち上がってる」 気持ち良さで腰から落ちそうになった俺の腰を、飾音は片腕を回してぐっと引き寄せた。 「おっと」 互いの硬いモノが、布越しに擦れ合う。 「んん……っ♡」 熱くて、硬くて、擦れただけで気持ちイイ。 「感度いいね。三カ月我慢したもんな」 「うん、頑張った……」 腰が砕けそうになった俺が見上げた先、飾音はきゅっと眉を顰める。 「そんな顔されると、我慢できなくなるから。……ひとまず、風呂入ろうか」 「ええと、俺、ひとりで入りたいな」 「なんで?」 「色々準備したい、から」 「その準備から見たい」 「お願い、今日だけ」 俺が懇願すると、飾音は折れてくれた。 「……わかったよ。仕方ないな、今日だけだよ? 先がいい? あとがいい?」 「あと、で」 「ん。風呂溜めてくるわ」 もう一度軽いキスを落とした飾音が玄関の傍の風呂に向かうと、俺は床に落とされた上着を拾い上げた。 飾音はスーツを着たままなのに、俺だけ乱されて恥ずかしい。 けど、触れた時ガチガチに硬くなっていた性器で、飾音も興奮していることがわかって嬉しい。 「ごめん、上着が皺になるよな。ずっとお預けくらってたから、今日は本当に歯止めが効かない」 風呂から戻って来た飾音は俺に手を差し伸べる。 俺が自然と自分の手を乗せると、フッと嬉しそうに微笑んだ。 「……上着を受け取るつもりだったんだけど」 「え、あ、ごめん」 勘違いして、恥ずかしい。 慌てて手を引こうとした俺の手をぐっと握り、飾音はそのまま部屋のベッドまで誘導した。 「ううん、むしろ嬉しい。俺風呂入ってくるから、ちょっと待っててね。冷蔵庫に入ってる飲み物は自由に飲んでいいから」 「ありがとう。でも、まだ風呂溜まってないだろ?」 「俺はシャワーでいい。それより早く彬良に触れたい」 真っすぐに言われて照れた俺は思わず俯く。 飾音は俺の手にしていた上着を今度こそ救い上げてハンガーで整えると、ウォールフックに引っ掛けた。 「じゃあ、適当に寛いでて」 「うん」 冷蔵庫を開けると、俺の好きなレモンサワーやジュースが並んでいる。 ふと冷凍庫を開けると、俺が前に食べていたスパウトパウチタイプのアイスが入っていた。 「こういうとこだよな」 飾音はこうしていつもさり気ない優しさを見せてくれる。 だから、飾音には俺も良くしたいと思ってしまうのだ。 選んだジュースを飲みながらローテーブルの上に置いてある飾音の雑誌をぱらぱらと捲る。 家具屋に勤める俺は、インテリア関係の雑誌が大好きだ。 しかしこの雑誌はお高くて、気になるテーマがある時しか手を出せない。 だから、インテリア関係の仕事をしている飾音にこの雑誌を紹介したら定期購読するほどハマってくれたのは、ある意味とてもラッキーだ。 普段はウキウキとしながら家の主とああだこうだ言いながら読ませて貰うのだが、今日はその内容がちっとも頭に入って来ない。 飾音が隣にいないから集中出来ないわけではなく、風呂から出たあとのことに意識が向いてしまうからだ。 悪戯にページを捲っていると、飾音が戻ってきた。 「お待たせ、彬良。ごゆっくり……と言いたいところだけど、あまり待たせないでね。突撃したくなりそうだから」 「いや、耐えろよ」 笑って馬鹿を言いながらも、会話の内容の意味がわかっていると結構際どい。 わしゃわしゃとタオルで濡れた髪を拭く飾音が、何故か色っぽく見えた。 学校でのプールで、お互いの家でのお泊りで、旅行で、日帰り温泉で。 そんなシーンを見る機会は嫌というほどあったのに、当時の俺は何も感じなかった。 なのに、今は違う。 三カ月前のあの日から、俺の中の何かが変わったんだ。 もしかしたら、「好きな奴」を見た時の飾音も、こんな気分だったのかもしれない。 胸の中のモヤモヤが広がる前に、仕事用鞄じゃないリュックを持って飾音と入れ違いに風呂場へ向かう。 飾音の横を通り過ぎようとした時、手首をパシッと掴まれた。 「ん?」 どうした? と聞く前に、手をくいと持ち上げられて、甲にちゅ、と口付けられる。 「彬良、俺、今日のこの日をずっと夢見てた」 「お、大袈裟だなぁ」 飾音も三カ月の間、楽しみにしてくれていたのだろうか。 どうか俺の顔が赤くなったことに気づかれていませんように、と思いながら風呂へ入った。

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