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第2話
「はい、すいません……。荷物の送り戻しってお願いできますかね?」
冬馬の部屋は1Kでとてもじゃないが二人分の家電を入れるほどのスペースは無い。当面はベッドを置く事もできそうにないため本当に最低限のものだけを引き取り、あとの荷物は配送業者の人に頼み込んで送り戻ししてもらう事にした。
不動産屋に頼んで別物件を探してもらってはいるが、今いるアパートと同条件の学校から近い部屋が中々なくて困っている状態だ。
幸い冬馬は「早く出ていけ」なんてことは言わず、狭い部屋に俺が居候していても特に気にはしていない様子だった。
「ごめんな、なかなか出ていく当てがなくってさ……」
申し訳なさそうに頭を下げつつそう言うと彼は気にするなと言って首を横に振った。
冬馬と一緒に暮らして一週間、分かったことは彼がとても無口だと言う事だ。必要以上のことを話すことはなく会話も必要最低限しか交わさない。かといって別に嫌われているわけでもないようで、普通に接してくれるところは好感が持てる。
見た目から勝手に性格悪そうな根暗だと決めつけていたが、意外とそうでもないのかもしれない。
とは言え最初の挨拶の時以外はあまり目も合わないし無愛想なので、仲良くなるにも少し時間がかかりそうだった。
授業が終わり帰宅してから一人で夕飯の準備をしていると、ちょうどバイト帰りの冬馬がコンビニ袋をぶら下げて帰ってきた。
お互いに顔を見合わせるだけで軽く会釈だけ済ませる。買ってきた物を袋ごとレンジに入れて温めている横でソーセージを刻んでいると、背後から声を掛けられた。
「何してんの?」
「ん?あぁ、勝手にキッチン借りて悪い。自炊しないとお金なくなるからさ、節約だよ」
フライパンの中でコロコロ転がるソーセージを菜箸で転がしていると、いつの間にか後ろに立っていた冬馬が俺の手元を覗き込んでいた。
「何作ってんの?」
「えぇ?あー……と……。ナポリタン風焼きそば……? かな??」
ナポリタンスパゲティは麺を茹でないといけないが、焼きそばならば麺を直接フライパンで炒めるだけで作れるからお手軽だし美味い!……はず。
「へぇ……美味そう」
おっと?これは興味を持たれている反応では??
彼は俺の作っている料理に興味を示したのか真後ろからフライパンを覗き込んでいて心なしか楽しそうに見えた。
「……冬馬も食う?」
恐る恐る尋ねると暫く沈黙が続いた後に、彼はコクリと静かに頷いた。
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「ナポリタン風焼きそば……」
皿に盛った焼きそばを見てポツリと冬馬が呟く、まぁ創作料理だし名前がなくても仕方ない。彼は箸でそれを掬い取り口に運ぶと、モソモソと頬を動かして咀嚼し始めた。
「ど、どうよ?」
緊張しながらも感想を待っているとごくんと飲み込んだ後で彼はゆっくりと言葉を発した。
「うまい」
「そっかー! なら良かったぜ!!」
何だか審査員に認められた気がして嬉しくなりガッツポーズを決める。料理を褒められたことは初めてでテンションが上がった。
俺も箸で掬って麺を口の中に入れる、ケチャップソースが焼きそばの中に混ざって絶妙な味を生み出していた。我ながら上出来だと思う。
パクパクと焼きそばを食べ始めると、冬馬も負けじと俺の作った焼きそばを貪るようにして食べていた。
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こうして徐々に俺と冬馬は打ち解けていき、なんだかんだと半月もする頃にはお互い気軽に話せるようになっていたが、相変わらず俺の新しい引っ越し先が決まることはなかった。
「はぁ~、なかなか学校近くの物件、ねぇもんなんだな……」
「まぁ4月までに学校周辺のアパートは埋まるだろうからな、今の時期はどこも同じようなものだろ」
大きなため息をついて落胆する俺を見て苦笑しながら冬馬が慰めてくる。結局俺は未だに冬馬と1Kの狭い部屋をルームシェアしているのだ。
しかしこのままでは、いつまでも次の住まいが見つからない、困ったもんだ。
「はぁ……ごめんな、ほんと。いつまでも世話になっちゃってさ」
「俺は意外と楽しんでる」
ホントか?そう言って疑いたくなるほど淡々とした表情で言う冬馬に、俺は半信半疑のまま苦笑いを返すしかなかった。
冬馬は相変わらず素っ気ないし愛想が良いとは言えないが、見ず知らずの俺を一月も部屋に住まわせてくれているいい奴だ、迷惑だってたくさんかけているはずなのに文句の一つも言わない。
だからこそ居心地が良くついつい甘えてしまう部分もあるのだろう。
こんな素敵な友人が出来ただけでも良しとしよう、そう思うことにした。冬馬がどう思ってるかは別として。
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