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第5話
「女装喫茶?」
「うん、男子たちが出し物決めてくれないから女子で決めちゃった」
朝の朝礼会の後、女子たちが教卓の前に集まって学際のクラスの出し物について説明をし始めた。
俺のクラスの男子はダウナーな奴らが多く、学際なんて学校をさぼる口実としか思っていないような奴ばかりだったので、女子たちだけで決めたらしい。
それにしたって女装喫茶とは……。
配られたプリントには、メイド服に女装した給仕のイラストが描いてある。
「こ、こんなの着て接客するのかよっ!?」
声をあげたクラスメイトの男子たちは、明らかに嫌そうな顔をしていた。
それに対して女子たちは男共に化粧をしたりヘアメイクをすることを楽しみにしているらしく、やる気満々といった様子だ。女というのはつくづくこういうことが好きな生き物なのだなと思うし、その感覚が理解できない自分は、だから非モテなのかもわからない。
まぁでも男子が14人もいるのだ、2、3人は裏方に回るだろう、どうせ顔のいい奴がこういうものの標的になるのだ。と高を括っていたのだが……。
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文化祭当日、クラスの男子の半分が学校を欠席してしまったため、どうせ裏方に回るだろうと思って出席した“真面目”な男子たちは、みんな見事にメイド役にされるという悲劇に見舞われていた。
「何で半分が休みなんだよっ!?」
当然俺も例外ではなく、フリフリのメイド服を着せられ女子に化粧をされている最中である。
「秋生君小さいから本物の女子みたーい! 可愛い〜!」などと褒められているんだか貶されてるんだかわかんない言葉を浴びせられながらも、俺は普段とは違う女子との近い距離感に少しだけドキドキしながらされるがままにされていた。
学際を機に女子と良い感じになれるかもしれないし、うん。
そう思うとこの最悪な女装イベントも少しだけやる気が出てくるというものだ。
午前中はそれなりに客入りがあり、そこそこ忙しかったが、午後が近づくにつれ人足も疎らになって暇を持て余す時間が増えてきた頃、ガラリと教室の戸が開いて冬馬が顔を出した。
彼はキョロキョロと中を見回し、俺に気が付くと手にしている焼きそばのパックを落としそうになっていた。
「なんだその恰好……くく……」
「仕方ないだろ、人員不足なんだよっ。何だよ、冷やかしに来たのか?」
ニヤケ面のイケメン野郎に声をかけると、「あぁ、昼飯……出し物の焼きそば貰ったから」と手にしていたパックを俺に手渡して来きた。
飯も食わずに給仕をしていたため正直腹が減っていたので助かる。
キッチンに居る女子たちに「休憩していいよー」とも言われ、俺は冬馬と教室を出て、いつもの中庭で焼きそばを食べることにした。
「それにしても……ふふ、メイド服……似合ってるぞ? くくっ」
「うるせーよ、好きでこんな格好してるわけじゃないんだよ!」
似合わないことは自分でもよくわかっている。アニメに出てくるようなミニスカのメイド服じゃなくてよかったとは思うものの、俺の着ているクラシカルなワンピースも少女趣味で俺には不釣り合いだと自分で思う。
「可愛いよ、クク……本当に女みたいじゃ……ぷっ……ないか……?」
「……お前、後で覚えとけよ……」
腹を抱えて笑う冬馬に拳を握り締めながら睨みつけたけれど、俺が凄んで見せたところでコイツは全く意に介していないようだ。
「あーもう、焼きそば食うぞっ!!」
悔しくてバシンっと勢いよく割り箸を割り、まだ笑い転げている冬馬の脛を蹴り上げる。痛えと言いつつ涙目になっているのを見て多少溜飲を下げることができた気がした。
焼きそばを食べながらいつもより少し賑やかな校内の音に耳を傾ける、校舎の外ではどこかのクラスがやっているであろう出店や催し物が賑わっている声が聞こえてきて、なんだかそれだけで楽しい気分になった。
「なんかさー、学際なんてめんどくせぇーって思うんだけど、でも当日になるといつも楽しいなって思っちゃうんだよなー」
「そうか?」
「そうだよ、非日常感っつーか、祭りっていう雰囲気が、なんか楽しくなっちゃうんだよね〜」
「確かに」
冬馬が俺のヘッドドレスを弄りながら答える。縦ロールの鬘が揺れて落ちそうになったのを直すように手で抑え付けつつ、チラリと上目使いに見上げると目が合った。
「今年の学際はアキが居るから、俺も楽しい」
「なんだそれ」
「友達出来たの初めてだから」
そう言って照れたように笑った冬馬はとても幸せそうだった。
「TO-MAだってバラしたら友達増えると思うけどな」
「そう言うのは友達じゃないだろ、俺はアキだけで良い」
何の気なしに言った俺の言葉に冬馬は真顔で返した。相変わらずこういうところは頑固だ。
「まー、お前がそれで良いなら別に良いけどさぁ……」
そんなやりとりをしながら食べ終わったパックを片付けていると、クラスの女子の一人がやって来て俺を呼び出した。なんでも女装喫茶がどこかでバズったらしく客が押し寄せているらしい。
冬馬に手を振って別れ、教室に戻った俺は夕方の閉店時間まで馬車馬のように働くことになったのだった。
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