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第24話
もうすぐ9月も終わりに近づいてきたとある金曜日。
世間の学生たちは連休に入り浮かれている頃合いだが、社会人にとってそんなことは関係なくいつも通り働かなければ生きてはいけない。
それでもこの納まらない暑さだけはどうにもならないらしく、工場の熱気も相まってまさに地獄の様相を呈しており、皆水分補給と休憩を挟みながら何とか持ち堪えていた。
「暑くてやる気でないっす~」
隣で作業をするハルが愚痴を零しているが俺だって同じ気持ちだと言いたいところだ。
「夏はいつもこうだよ、去年なんて夏木さんが熱中症で倒れたし」
「マジすか……」
「だからハル君も水分と電解質の補給怠らないでね」
「……ウッス」
返事はしたものの既に集中力が切れているのかどこか上の空の様子だ。無理もない、こんな猛暑の中ずっと長袖の作業着と軍手という格好で動き回ってるのだ。汗だってダラダラ垂れてくるし疲労困憊と言ったところだろう。
それでも夕方を迎え少し涼しい風が吹くころになると、ハルも徐々に元気を取り戻していったようで黙々と作業を続けていた。
「お疲れ様でしたァ~!」
定時を知らせる鐘が鳴り響き次々と作業員たちが帰宅の準備を始める。ウチの工場のシャワー室は3個しかなくてこの季節は混み合うため順番待ちになってしまうことがあるため、なるべく早く業務を終えてシャワー室に向かったものの案の定長蛇の列が出来てしまっていた。
仕方なく最後尾に並ぶと、俺の後に並んで歩いてきたハルも同じく最後尾に立ったようだった。
「今日は一段と混んでますね~」
「仕方ないさ、この時期はどうしてもね」
「うへぇ~……最悪っすねホント」
ようやく自分たちの番が来て中に入るや否や素早く服を脱いで頭から熱い湯を浴びる。全身が一気に温められる感覚に思わずため息が出た。
隣のシャワー室からはハルの鼻歌交じりの歌声が聞こえてくる。それを聞きながら身体を洗っていると不意に声を掛けられた。
「せんぱーい、今夜暇ですか?」
「んー? 空いてるけどどうかしたのか?」
「飯いきません? 夏木先輩も誘って三人で行きましょうよー」
いつもの軽い口調で提案してくるハルに軽く承諾しつつ、身体を洗い終え服を着ていると後ろから声をかけられた。
「なんだお前ら二人揃って、和解したのか?」
振り返るとこれからシャワーなのか着替えを手にした夏木さんが立っていた。
「和解っていうか、まぁ話し合って誤解が解けたっていうか」
「初めから険悪になる理由は無かったって事っすよ、夏木先輩っ☆」
ハルの言葉を受けて、何があったんだぁ?とニヤニヤしながら聞いてくる夏木さんだったが、詳しく話すわけにもいかず曖昧な返事になってしまった。するとすかさずハルが続ける。
「夏木先輩、これから三人で飯行きませんか?」
「おういいぞ~! どこ行くか決めてんの?」
「そりゃ勿論、夏木先輩のおすすめの店に連れてってくれるんですよね?」
「仕方ねえなぁ、んじゃ行くかー」
ハルは夏木さんに懐いている、お互い緩い性格というのもあってフィーリングが合うのだろう、一年一緒に居る俺よりもハルの方が打ち解けるのが早かったように思うくらいだ。
二人でじゃれ合いながら歩きだす後ろ姿を見て微笑ましく思うと同時に胸の奥が少しモヤっとする。
ハルは夏木さんのことどう思っているんだろうとか余計なことを考えてしまっている自分がいることに気付いたからだ。
いやいや、夏木さんはゲイじゃないんだから有り得ないだろうけど、でもハルの押しの強さに負けて付き合ってしまったりするんだろうかとか考えてしまうわけで……。
いかん、これは完全に嫉妬心だ。
自分で自分の考えを否定しつつも、頭の片隅にあるモヤモヤした感情は拭えなかった。
忘れるつもりでいた夏木さんへの恋心がこうして時々顔を覗かせてくる事がある。その度に胸が締め付けられるような痛みに襲われるけれど、どうしようもない事だというのは自分自身が一番よく分かっているつもりだ。
「おい、置いてくぞ~」
ぼんやりと考え事をしているといつの間にか二人と距離ができてしまっており、遠くから名前を呼ばれる声でハッと我に帰る。慌てて駆け寄ると二人が待ってくれているのが見えてホッとした反面、気を使わせてしまったことに申し訳なさを感じた。
居酒屋に着くと座敷席に通され各々好きなものを注文し、店員が去ると早速と言わんばかりにビールジョッキを手に乾杯の音頭が取られた。
「お疲れぇい!! カンパーイ!!」
カチャンと音を立ててグラスを合わせる音が響き渡ると一斉にグイッと中身を飲む。俺とハルはまだ未成年だからジンジャエールだったけど、まるでビールを飲むみたいにゴキュゴキュと喉を鳴らして流し込んだ。
「ぷはぁ~~ッ!!! うめえ!!!」
熱い工場の中で汗水たらして働いたから余計に美味しく感じるのだろう。喉を炭酸が抜けていく爽快感と言ったらない。
「あーやっぱ労働後の一杯は最高っすね」
「ほんっとそうだよな~! あ゛~~効くぅ~」
カンっとジョッキをテーブルに置く音が響く。ふぅーっと一息つき、また店員に同じものを注文した。
「───それでよぉ、崎山さんまだガラケー使ってんだぜ、だからよぉ、もう使い方とか覚えてねーしって思ってたら、ボタンにドライブモードのアイコンがあってよぉ。それでようやく電話がつながるようになったってわけよ」
「あはは、それで崎山さん電話が潰れたってワーワー言ってたんスね」
「まぁ、言うて崎山さんもう70代らしいし、でもよく会計事務でパソコン入力できてるよな、あんな難しいソフト使って」
うちの工場は中小で昭和30年代から続いていて社員数は少なく60代70代の職人が未だ現役として働いているようなところだ。だから比較的年齢の近い夏木さんと俺とハルは三人セットでいる事が多く、自然と会話も多くなる。
「俺、70代になるまでプレス機使える自信ないわ」
枝豆を摘まみながらそう言うとハルがケラケラと笑った。
「アキ先輩は小さいから腰曲がらなそうですし、いけるんじゃないっスかね」
「悪かったなチビで!」
「いいんだよ、チビだから秋生は可愛いんじゃねーか」
夏木さんのフォローが入るものの複雑な気分だ。
「前から思うんですけど、夏木さんの言う可愛いって男に使う言葉じゃなくないです?」
ジト目で言い返すと夏木さんはきょとんとした顔で言った。
「そうかぁ? こう、ちみっこくて短い手足で頑張ってプレス機動かしてる所を見ると可愛いなって思っちまうんだよなぁ」
うぅん……夏木さんは俺の事を小動物か何かだと思っている節があるんだよな……。
「あっはっは! アキ先輩、言われてやんの!」
笑い転げるハルを軽く睨みながらも内心悪い気はしなかったりもする。他の人に言われても嬉しくはないが、夏木さんに可愛いと言われるのはちょっとだけ嬉しかったりするのだ。
「えー、でも言うてみんなそう変わんないですよね?身長」
「え?秋生何センチあるんだよ?」
「162」
「ハルは何センチあるんだ?」
「184」
「夏木先輩は?」
「176」
くそっ! 比較的身長が近いと思ってた夏木さんとすら10cm以上差があるのかよ……。
「ひーっひっひっひ! アキ先輩170無いんすか!? 女の身長じゃねーっスか!」
ゲラゲラと笑うハルの頭を引っ叩くと痛そうに頭を抱えたあと涙目になりながら文句を言ってきたが無視を決め込む。ったく失礼な奴だ全く。
「ほらな、秋生は可愛いんだよ」
「屈辱です」
フンと鼻を鳴らしそっぽを向くと夏木さんの手が伸びて来てぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜてきた。
「ちょ、やめてくださいよ!」
「いいんだよ、チビだからって秋生の価値が下がるわけじゃねーし、俺は好きだぞ」
ストレートな物言いに顔が熱くなるが必死に平静を保つ。
落ち着け自分、この人は誰にでもこういうことを言うんだから、いちいち反応してたらキリがないだろうが。でも、夏木さんに好きって言われて嬉しいと思ってしまう自分もいるのだからしょうがない。
チラリと見上げる形で夏木さんを見ると微笑み返されてしまい、照れ臭くなってしまってつい俯いてしまった。
「……そ、そうっすか……」
「そうだよ」
俯いたままの状態でぼそりと呟くと頭上から優しい声色の言葉が返ってきた。顔を上げられずにいる俺を気遣う様に覗き込む気配がするが恥ずかしくてなかなか顔をあげられない。
「なんスか二人で良い雰囲気作っちゃって」
そんな俺たちを見ていたハルが拗ねたような口調で割り込んできたことで漸く顔を上げることができた。
「良い雰囲気って言い方やめれ。そういうのじゃねーから。ほら、ハルも可愛いぞ~!」
夏木さんはハルの頭もガシガシと撫で始めた。
あっさりと雰囲気を否定されて若干凹んでいる自分に気付く。あーあ、やっぱり俺はまだ夏木さんの事が諦めきれないんだなと思い知らされた気分だった。
その後は、また職場の人の話だったり仕事の話をして盛り上がり、時間はあっという間に過ぎていった。
帰り際、いつものように解散を渋ったハルが「カラオケ行こうよ」と言い出したが、夏木さんは酒で喉をやられたらしく断って、結局、俺とハルの二人だけが残った。
駅の近くのカラオケ屋に入ると受付を済ませ、部屋に入った途端テンションが上がったハルが曲を入れるためにタッチパネルを操作し始めたのを見て苦笑する。
「俺どんどん入れるんで、アキ先輩も順番とか気にせずドンドン入れていいっスからね」
「わかった。ハル君ってカラオケ好きだよね」
「まーそうっすね、最近セックスしてないんで色々たまるっつーかストレス発散できるトコ限られてるんで」
なるほど、ハルにとってセックスってストレス発散も兼ねてるのか。だから誰とでも簡単にしちゃうんだろうな。
「もっと健全な方法でストレス発散しなよ、ジョギングするとかさ」
「えー嫌っスよー面倒臭いじゃないですかぁ」
「そんなに簡単に人と身体を繋げてたらいつか痛い目見ると思うんだよね俺」
「じゃあアキ先輩が相手してくださいよ」
「な、何でそうなるんだよ……」
顔を赤くして狼狽えていると「カラオケの事っすよ」と返された。俺一人が勝手にやらしい方向に考えていたのかと気付き恥ずかしくなって俯く。
「顔赤くしちゃって、夏木先輩も言ってたけど……アキ先輩って可愛いっすね」
「ハル君が紛らわしい言い方するからだろ!?」
からかわれていることを自覚し、恥ずかしさを隠すように大きな声を出して抗議するものの、ハルは華麗にスルーしてステージに上がり歌を歌い始めた。
ハルは相変わらずゴリゴリのハードロックを好んで歌っている、冬馬と同じ顔だけど中身は全然違うのだと改めて実感させられたような気がした。
冬馬とカラオケに行ったことは無いけど、アイツのことだ、音楽は興味ないとか言ってカラオケに来ても一曲も歌わないで隅の方に座って影を薄くしているに違いない。
想像してみるとあまりにも容易にその光景が浮かんできて思わずククっと笑みがこぼれた。
今頃何をしてるんだろうか、逢いたいけど、今更会ったところで生活も何もかもが違う彼に対してどう接していいのかわからないし、もう俺の事なんて忘れてるかもしれない。そう思うと俺も、もう彼の事を記憶から消す努力した方がいいんじゃないかと思えてくる。
「先輩曲始まってますよー」
ぼーっとしていたらいつの間にか自分の番になっていたみたいでハルに指摘され慌ててマイクを手に取った。
結局夜遅くまで歌ってカラオケ店を出る頃には日付が変わる寸前だった。
「あ゙ー……めっちゃ動いたから超汗かいてジトジトするぅ~!」
「ほんとだな、折角会社でシャワー浴びたのに、帰ってからもう一回風呂入り直さないとダメだこれ」
外に出るなり声を上げるハルを横目に苦笑いしつつも同意を示すと「先輩」と呼びかけられて足を止めた。
振り向くと数歩後ろにいたハルがこちらを向いて立ち止まっているのが見える。
「……なに……?」
「何か俺……今日、先輩と二人でカラオケ来れてよかったです。ありがとうございました」
突然の感謝の言葉を告げられポカンとしてしまった。いつも突拍子もないことばかり言ってる子だとは常々思ってはいたけれど改まってお礼を言われると戸惑ってしまう。
「ど、どうしたの急に改まって」
「警戒されてるかなって、何となくそう思ってて。さっき夏木さんがカラオケ行かずに帰るって言った時、あぁ、アキ先輩もお開きにしようとか言って帰っちゃうのかなって不安になってたんスよね。そしたらこうやって付き合ってくれたし、だから俺、赦されたのかなって」
申し訳なさそうに眉を下げて見つめてくる彼に何と答えていいか分からず黙り込んでしまった。まさかそんな風に思われているなんて思ってもいなかったから驚いたというのが本音だ。
「許すも何も……ハル君とはちゃんと話したし、信頼してるから。警戒なんてしてないよ」
「そっすか……良かったっす」
確かに身体を触られた時はビックリしたけど、それだけで嫌いになったわけじゃない。嫌だって言ったら止めてくれたし、話が通じない人じゃないのは分かってるつもりなんだから。
「それで、こんなこと言ったら引かれるかもしれないんすけど」
「何?」
「……人恋しくて……今夜一緒に居てくれませんかね」
予想外のお願いに一瞬思考が停止してしまいそうになった。どういう意味なんだろうと考えを巡らせてみたものの上手く理解できなくて首を傾げながら問いかける。
「それってどういう……」
「そのままの意味ッス。俺、時々寂しくて頭がどうにかなりそうになるんです。こういう時誰かとくっついてないとダメになっちゃうっていうか……まぁ、メンタルガバガバなんスよ、俺。セフレとも喧嘩別れしちゃって長いし、ここんとこずっと一人なんで」
淡々と語るハルの表情はどこか寂し気で今にも消えてしまいそうな儚さを孕んでいたように見えた。その瞳の奥にある本心を覗き込もうとじっと見つめてみるも視線はすぐに逸らされてしまう。
「……ほんとは夏木先輩に都合が付けば彼に頼んでみようかと思ってました。でも帰っちゃったし……だからアキ先輩しか居なくて。あ、勿論ヤリモクとかそういう意味じゃないんで安心して下さい、単純に一緒に居て欲しいだけです」
彼がそこまで言うと沈黙が訪れた。
いつも冗談ばかり言って何考えてるか、よくわからない奴だと思ってたのに、今の彼はさっきまでの威勢の良さは一切感じさせない弱々しい様子に見える。
思えばハルはいつも二次会を提案したりして解散するのを嫌がっていたような気がする。
単に騒がしいのが好きなのかと思っていたけど違ったようだ。寂しいから誰かと一緒に居たいって、そう言う理由だったのか。
「いいよ」
気が付けば自然と口に出ていた、それは冬馬にそっくりな彼がとても寂しそうな顔をしていたせいなのかもしれないけど、何となくこのまま帰すのは酷だという気持ちが強かったのも事実なのだ。
俺の言葉にパッと表情を明るくさせたハルの顔は、やはりどう見ても冬馬と瓜二つで、高校生のあの頃を思い出させるものだった。
「良いんすか?」
「良いよっつってんじゃん、あと俺ん家狭いからソファで寝てもらうけどいい?」
「全然っ」
嬉しそうにはしゃぐ姿に苦笑しつつ自宅へ連れ立って歩き始めた。
そういえば、こんなふうに誰かと二人で歩いて家に帰るなんてこと久しぶりだな、昔は毎日のように冬馬と下校してたっけ。
久しぶりに埋まった左肩側、懐かしさに頬が緩んだ。
─────────……
自宅に辿り着き玄関を開け、部屋の中へ案内する。電気をつけ冷蔵庫に入っているペットボトルの水を取り出すとコップに注いでテーブルに置いた。
「シャワー浴びてきて良いよ、あっちの扉入ったとこに洗面所があるから。タオルの場所は見ればわかると思う」
Tシャツと半パンを箪笥から取り出し渡すと、浴室へ向かった彼を見送りソファに腰かけ息を吐いた。今更ながら「本当は夏木さんの家に転がり込むつもりだった」という一言が胸に突っかかっているような気がしてならない。
ハルはバイだし夏木さんの事が好きだと言い出しても何らおかしいことは無いのだ、だとしたら恋のライバルになるのかなぁと思うと気分が重くなるのを感じた。
いや、俺はもう夏木さんへの恋心は諦めたはずなんだよ……。ここ数か月それで接してきたじゃないか。それなのにいざ夏木さんが取られそうに思えた瞬間ショックを受けてるだなんて……どんだけ往生際が悪いんだ俺は。
自己嫌悪に陥りかけたその時、ガチャリと音を立ててバスルームの扉が開かれた音がした。そちらに目を向けると俺の服を窮屈そうに身に纏ったハルの姿が見えた。
「先輩、貸してもらって悪いんスけど、流石にこのTシャツパツパツすぎて肩が痛ぇっス」
俺とハルの身長差は役20cm、そりゃ俺の服なんかじゃキツすぎるに決まっているよなぁ、と思いながら両腕を上げたまま動けなくなっている彼のTシャツを脱がすのを手伝った。
幸い半パンは問題なく穿けたようだが上半身裸の状態のまま困ったように笑っている彼の顔を見ていると何だかおかしくなって笑ってしまった。
「ふははっ、ごめんごめん、小さいのしかなくて」
「いや、俺の方こそ急に泊めて欲しいって言ったんで、寧ろすいません」
ペコリと頭を下げるハルに気にしないでと言いながら、俺もシャワーを浴びに浴室へと向かった。
数分して部屋に戻るとテーブルに向かって座り込みスマホを弄っているハルが目に入った。彼は俺が風呂場から出てくるのを見つけると顔を上げて笑顔を浮かべてみせた。
「先輩先輩、見てくださいよTO-MAの映画、今日から上映開始らしいっスよ」
「へぇ、銀月でしょ? 漫画原作のやつだよね確か」
「っすね、つか見てくださいよ、このビジュ! 主人公のハヤテまんまじゃないっスか? クオリティ高けェ〜!!」
魅せられたスマホのキービジュアル画像に視線を落としじっくり眺めてみる、そこに居た冬馬はまるで漫画から飛び出してきたかのような容姿をしていて見惚れてしまったほどだ。
「本当だ、凄い完成度高いな」
「もうこの美貌は最早人外レベルっすよねぇ、マジで完璧美形」
「ハル君も同じじゃんか、TO-MAそっくりだし」
「いやぁ、このレベルまでになると流石に骨削らないと無理っすよ、頬骨とか顎のラインとか丸っきり変えなきゃTO-MAにはなれねーっす」
そうかな、俺から見たら双子って言われても納得できそうなくらい似てるように見えるんだけどな。と言っても俺が見ていた冬馬といえばボサボサ頭でビン底メガネをかけた冴えない姿だったので、本来のイケメンっぷりを間近で見たことがないというのも影響してるのかもしれないが。
「髪ボサボサにしてビン底メガネかけてみる?」
「え? どういうことっスかソレ」
「なんでもない」
そうすれば違いが分かるかもと言いかけてやめた。俺しか知らない冬馬を他の人に共有するのが勿体無く思ったのだ。
「先輩もTO-MAファンなんすよね、銀月観に行きません?週末のレイトショーなら良い席確保出来そうだし」
「いいね、行こう」
一人で観に行くのはハードルが高いから諦めていたのだが、何という幸運。大きなスクリーンで冬馬を見られるチャンスを逃すまいと即決したのは言うまでもないだろう。
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