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第38話

 相変わらず年末の工場の忙しさは殺人的だ、しかも日々残業をしている中、俺は家に居る“プー太郎”の分も家事を請け負っているせいで毎日へとへとになっていた。  今日も日付が変わる前に帰宅できたけれど、飯を作って洗濯をして風呂の準備をして寝るだけの状態にしておいてやらないとあいつは生活出来ないのである。  いや、高校生の頃は洗濯と掃除くらいはしてただろう、なのに何でこうも人間らしい生活が出来ないのか疑問である。 「おかえり」  玄関を開けると腹をぼりぼりと書きながら俺を出迎えるのは、今活動休業中の俳優、TO-MAこと笠木冬馬だ。  なんだかんだ俺の家に居ることを許してしまってから早1ヶ月半。  最初の内はハルに対する後ろめたさに苛まれていたが、段々とコイツが居ることが当たり前になってきて最近は普通に受け入れてしまっている。 「ただいま、今日は鍋だぞ」 「やった、肉多めがいい」 「はいはい……」  まぁ食費も家賃も光熱費も半分出してくれるから経済的には助かってるけど。  せめて自分のパンツくらいは自分で洗えっつーの、俺はお前の母親じゃねんだぞ、クソ。  食卓に出しっぱなしのIHコンロに水を張った鍋を置いて具材を入れていくと、冬馬は嬉しそうにしながら俺の背後回り込んで肩に顎を乗せてきた。重い。  べたべたとくっつきながら鍋の中を覗き込んで「まだかよ」と言ってくるので無言で頭を殴ったら大人しくなった。  俺に気持ちを打ち明けてからの冬馬はとにかくオープンだ、今までよくもまぁそんなに溜め込んで居られたなっていうレベルで自分の気持ちをぶつけてくるのである、いや、俺が気付いたからそう感じるだけなのかもしんないけど。 「年末どうするんだ?俺実家帰るけど……」 「俺はここに居る」 「はぁ……じゃあ、掃除とかちゃんとしろよな」 「任せろ」  ほんとかぁ?と思いながらも信じるしかないよな、と諦めてため息をつく。  ハルみたいに実家についてきたらどうしようなんて思ってたけど杞憂だったみたいだ、TO-MAファンの母さんの前に本物のTO-MAが現れたら大騒ぎになっちゃうからな。  ぐつぐつと音を立てる鍋の蓋を開けて中身を見ると、良い感じに具材が煮えていた。 ───────────────……  年末年始は実家で過ごし、正月休み最後の日にアパートに戻ると、宣言通り冬馬は俺の部屋で過ごしていたらしく、部屋の中はグチャグチャになっていた。  洗濯物は山のように積まれ、シンクには空のペットボトルやカップ麺容器などが放置されていて酷い有様だ。  部屋の惨状を見て思わずため息を吐くと、冬馬はバツが悪そうに目をそらした。 「おまえなぁ……俺の家だからって遠慮無さすぎなんだよ……」 「やる事あって……掃除まで手が回らなかった」  やることって何だよ、家でゴロゴロする以外に何があるんだよ。と言い訳する彼を睨むとA4サイズの茶封筒を俺に手渡してきた。  なんだろ、と思いながら封を開けて中身を確認すると中からは、何かの書類と写真がパラパラと出てきた。その写真の中には見覚えのある病院のものが混じっていて、思わず顔を顰めた。 「何これ」 「……人使って調べられるだけ調べた、余計な世話かもしんないけど……。詳細知りたいだろうから」  書類の方を読んでみると、千葉県のとある家の住所とハルの名前、それに生年月日などの個人情報が書かれていた。 「親御さんと接触できれば、面会頼めるかもしれないだろ。電話じゃ無理でも、直接出向いて頼み込めば可能性はあると思う」 「でも……」 「不安なら俺も一緒に行くから……。な?」  心配そうに顔を覗き込んでくる冬馬に渋々頷くと、彼は安心したように息を吐いて微笑んだ。 ───────────────……

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