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第48話
冬馬と正式に交際する事になったものの、特に大きく何かが変わる事もなく日々は過ぎて行った。
元からほとんど恋人みたいな関係だったから変化らしい変化はない、強いて言えば冬馬の過保護が加速したくらいだろうか。
毎週休みの日になると家に押しかけて来て、俺が無事かどうかチェックしてる気がする。
11月の半ば頃、季節はすっかり秋めいて冬の気配が感じられたある日、今日も朝から押し掛けてきた冬馬がソファに座りスマホを弄っている姿を背後に、キッチンで昼食の準備をしていると不意に声をかけられた。
「アキ、このアパートの契約っていつ切れるんだ?」
「うん? 来年の3月だけど。なんで?」
「同棲……しないか?」
「へ……?」
突然の提案に思わず動きを止める。
「今俺が住んでる家からだと、アキの職場に遠いし、俺がここに住むとなると少し手狭だろ。家賃折半するならもっと広いところに引っ越せるぞ」
「そう言って俺の事、家政婦にしようと企んでんじゃねぇだろうな」
ジトっと見れば、冬馬は「まさか」と肩を竦めた。
「前みたいにどっちかが病気になった時に、一緒に暮らして居ればすぐ助けられるし、その方が安心じゃないか」
「えー……うーーん……」
「嫌なのか?」
嫌では……ないんだけどさ。
でもやっぱりちょっと怖いというか、不安はある。
一緒に住むってことは、毎日顔を合わせないといけない訳で、喧嘩したりすれ違う事があれば別れるという最悪の事態に陥る可能性もある。 そんなリスクを背負ってまでわざわざ同じ家に住む必要はないんじゃないかなぁとも思うのだ。
それに男同士で付き合ってるとか世間体的にどうなのって思うし、公表出来るような関係性でもないし。
「冬馬さぁ、男なんかと同棲してるってマスコミにバレたらどうすんの?下手すりゃ炎上しちゃうかもしんないよ?」
「バレなきゃいいだけの話だろ、家の中を覗かれさえなければ、実質ルームシェアと変わんないじゃん」
屁理屈こねやがって、冬馬がこうやって言い出したらもう引かないんだよなぁ。
俺は溜息をつきながら頭をポリポリと掻いた。
「でもなぁ、今の家より工場から離れると通勤時間が……」
「じゃあアキの職場の近くで探そう」
「冬馬はそれでいいのかよ……」と問えば、冬馬は「アキと同棲できるなら何でも良い」と恥ずかしげもなく言った。
言葉数は俺の方がはるかに多いのに、冬馬が喋るとどうも負けてしまうのは何故なんだろう。
結局押し切られる形で、俺の家の契約が切れたタイミングで二人で新居に住むという方向で話が決定してしまった。
───────────────……
「せめて2DKじゃねぇ? お互いプライベート空間は必要だろ」
「一緒に寝るのに部屋を分ける必要ってあるか?」
同棲をすることになった俺達は、早速ネットで物件探しを始めたのだが、寝室の広さや間取りについて意見が合わず口論になっていた。
「やだよ、毎晩冬馬と一緒のベッドで寝たら身体が休まんねーもん」
「何でだよ」
「お前ぜってー、なんだかんだ言って毎晩するだろ!?」
「それの何がいけないんだよ」
「俺は冬馬みたいな体力馬鹿じゃねぇって言ってんの! こっちは肉体労働してるんだからな!!」
「アキが隣で寝てるのに我慢なんかできるか」
「それが困るって言ってんだよバカ!!!!」
喧々諤々と言い争うが、一向に妥協点が見えない。いつもは折れてしまう俺だが、ここで折れてしまっては今後の生活に支障をきたしかねないため今回ばかりは譲れない。
「ヤダね! 部屋は二つ意外認めないっ! じゃなきゃ同棲解消だから!」
「解消は困る……」
絶対嫌だという意志で強気に言い放てば、冬馬は顔を顰めて口を噤んだ。
「寝室は別々、それにダイニングルームがあれば良いじゃん。だから2DKにしようよ、な?」
「一緒の空間も欲しい、妥協点としてリビングも欲しい」
「そんな広い部屋、家賃が高すぎるっつーの!」
「だから1LDKが良いってさっきから言ってるんだろ」
不毛だ、さっきから議論がループしている、お互いに自分の主張を押し通すので全く決着がつかないのである。
俺も大概頑固だけど、それ以上に冬馬の方が頑固だからな、こういう時本当に厄介だ。
「埒が明かない、じゃあもうじゃんけんで決めよーぜ?俺が勝ったら2DK、冬馬が勝ったら1LDKだ」
こうなったら実力行使しかない、そう思って提案すれば冬馬も異論はないらしく、3回勝負の真剣じゃんけんが始まった。
結果は……。
「やったぜ」
「くっそぉおおぉぉぉ! 最悪だぁあああぁあ!!!」
冬馬が2勝して俺の負け、2DKの夢は儚く散ったのだった。
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こうして、俺の住んでるアパートの契約切れと同時に、冬馬と二人で市内のマンションに引っ越した。
築浅ではないが内装はかなり綺麗で、そこそこお洒落な作りになっている。
1LDKの部屋は広めで、寝室とリビングの他に、風呂トイレ別々なのは有り難いし、ベランダも広くて洗濯物もよく乾く。
「この広さなら、捨てなくてもシングルベッド2個並べて置いても大丈夫だったなぁ……」
「でも俺はアキとくっついて寝たいと思った」
「……はぁ」
荷解きをしながら呟く俺に対し、段ボールの中の食器を片付けながら冬馬が言う。前の家で使っていたベッドや家具の処分代を冬馬に出してもらっている手前、あまり強く言えないが、正直俺はダブルベッドという冬馬との距離感に少し抵抗があった。
「毎晩は嫌だぞ、流石にぃ……」
「抱きしめて寝るくらい良いだろ」
「それだけじゃ済まねーじゃんそれ……」
「期待してるって事か?」
「バァカ!」
まとめて籠に入れたバスタオルを抱えてバスルームに向かいながら、彼の脛を思い切り蹴飛ばした。すると彼は「何すんだよ」と笑い声を上げていた。
まったく、性欲魔人が。
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