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第49話
そんなこんなで始まった同棲生活だが、最初はどうなるかと不安だったけれど、いざ住み始めてみると意外と上手くやっていけているんじゃないかと思う。
以前暮らしていたアパートよりも職場に近くなったから、通勤時間が短くなり仕事にも余裕が出て、生活面ではかなり快適だ。
安定した暮らしを続けて気が付けば2年、俺達も二十代半ばに差し掛かって、冬馬の仕事もだんだんと以前のように戻りつつあり、再び映画やドラマへの起用も増えてきていて忙しくなってきた。
俺はというと相変わらず工場で金属板の加工ばかり、何年経っても変わりのない仕事を続けていて、変わっていく冬馬とのギャップを感じずにはいられない日々を送っていた。
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『ごめん、今日も遅くなる』
冬馬からのメッセージをみて夕飯を作る手を止める。最近は映画に出演が決まって、その撮影のため毎日のように遅くまで帰って来ない日が続いているのだ。
忙しいって事は順調なんだ、とポジティブに考えるようにしているものの、やはり少し寂しさは感じていて。
「頑張れよ!」とメッセージとスタンプを送り返す。すぐに既読がついたものの返信はなかった。
冬馬と付き合う前から、芸能人と付き合う事ってどういうことか、ちゃんと理解していたつもりだ。
冬馬が仕事を頑張ってるなら応援するし、支えたいと思っているんだけれど、今までがベッタリだったせいもあってか、こうして時間が噛み合わないと少しだけ寂しい。
作った夕飯を冬馬の分だけタッパーに詰めて冷蔵庫へしまい、一人で食卓に座って食事を済ませた後は、早々に風呂に入って布団に潜った。
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夢を見た。
俺は病院に居て、ナースセンターに居る看護師さんの視線が痛くて俯いているところから始まる夢だ。
看護師さんに案内されて、通された病室に入ると、黒と白の幕が壁にかけられていて、中心にあるベッドを囲んで黒い服を着た人たちが沢山いた。
嫌な予感がして、人をかき分けてベッドに近づくと、そこには棺桶に入ったハルが横たわっていた。
「ハル君っ!!!」
ガバッと起き上がる。見慣れた寝室だ。
はぁはぁと息が乱れていて、嫌な汗もかいている。心臓がドキドキしていて息苦しい。
時計を見るとまだ午前2時を少し過ぎた頃で、起きるには早すぎる時間だが、再び眠る気にはなれなかった。
事故に遭ったばかりの頃はよく見ていた夢だ、最近は見なくなっていたのに。
冬馬とすれ違った夜を過ごしているから、寂しくてハルの夢なんか見たんだろうか……。
もうずっと思い出していなかったハルとの思い出がフラッシュバックしてしまい、やるせない気持ちになる。
ハルは今一体どうしているんだろう?良くなったのだろうか、それとも……。
冬馬とは恋人になったけど、ハルと過ごした日々が無かったことになるなんて事は絶対にないのだ。
「はぁ……はぁ……」
口が渇いてしまって上手く息が吸えない。水を飲もうとキッチンに向かい、グラス一杯の水を入れていると、玄関の鍵がガチャリと開く音がして、冬馬が帰宅してきた。
「アキ、起きてたのか?」
部屋に入るなり、冬馬は驚いたようにそう言った。
いつもであれば、寝ている時間帯だから無理もないだろう、心配そうにこちらを見てくる彼を安心させたくて、笑顔を作って見せると、俺の傍に駆け寄って両腕を広げた。
「な、なに?」
「抱きしめたい」
「……俺、寝汗酷いよ?」
抱きしめられる事を嫌がった訳ではない、嫌な臭いとかさせてたら嫌だなと思って遠慮したのだが、問答無用と言わんばかりに強く抱きすくめられてしまった。
「怖い夢でも見たか?」
「子供じゃねーし……喉乾いたから起きただけだよ」
彼は「そか……」と小さく呟き、そのまましばらく俺の事を離そうとはしなかった。
暫くすると、冬馬はゆっくりと腕を解いて、俺をソファに座らせると、頭をポンポンと優しく撫でてきた。
普段ならやめろ!と振り払うところだけど、今はなんだかそんな気分になれない。優しくされるとジンと胸に何か熱いものがこみ上げてくるような気持ちになってきて、鼻の奥がツンとした。
「も、もう良いよ……大丈夫だって」
「大丈夫じゃなさそうな顔してる」
そう言われて初めて気づく、俺は今、泣きそうな顔をしていたのだと。
心配をかけまいと笑ってみたのだが、逆に心配させてしまったようで、余計に気を使わせてしまったらしい。
「何があったか話せよ……」
「何でもねぇよ……」
何とか誤魔化したかったが、じっと見つめられると何も言えなくなってしまう。
無言の圧力というのは本当にあるのだ、こういう場合は特にそう感じるのかもしれない。
観念した俺は、さっき見た夢の話を始めた。
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「ごめん、もう冬馬と付き合ってんだから、前向かなきゃってわかってるんだけど……」
ついポロポロと涙が溢れ出してしまい、ゴシゴシと手の甲でそれを拭った。泣くつもりなんかなかったのに。
そんな俺の肩をそっと抱くと、冬馬はもう一度頭を撫でてくれた。
「アキの夢の中に入って、お前を守ってやれないのがもどかしい」
「何だよそれ、へへ」 泣きながら笑っている俺を見て、冬馬は困ったように笑って髪を梳く様に頭を撫で続けた。
「……俺は、アキと同じことが起きたら、気が狂うかもな。アキはよく耐えていると……思う」
「ありがとな……慰めてくれて」
「アキは偉いよ、自分をコントロールしてる」
そう言って頭を撫でてくれる手が心地よくて、思わず冬馬の肩に凭れ掛かった。
「ごめんな、冬馬……」
冬馬は首を振って、気にするなとでも言うように微笑んでくれた。
本当は凄く甘えたい気分だったけど、遅い時間だったし、これ以上迷惑を掛けたくなくてグッと我慢をした。
俺が落ち着くまで、彼は何も言わずただ傍に居てくれた。
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