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1年・春(2)
暁音が頬を掴む手を上から握ると悠の手が緩む。
口が離れる前に舌をいれると悠の身体が強張って一瞬ひく。
それを逃がさないように抱きとめて座っていたソファーに押し倒す。
「ん、ん…っ、ちょ、待っ…、んん…待てってぇ!もおぉ!
なんでそんなキスうまいん!いつもちょけてるくせにキスうまいん腹立つ!」
「俺にやって付き合うた女の一人や二人いてんねんもん、しゃーないやん?
ハルにやって付き合うた人何人かいてんねやろ?」
「う、ん…そらまぁいたにはいたけど……
でも俺そんなキスうまないもん!舌とかいれられへんし!」
「ハルはお子ちゃまやなぁ?あ、なぁハルってどっちなん?
タチとネコやっけ?突っ込む方と突っ込まれる方のやつ」
悠が勢いよくむせ返る。
いつかそういうことをしたいとは思っていたものの、まさか暁音の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
「なにむせてん。ほんまにお子ちゃまかって。え、もしかして未経験やったりする?」
「……そらどっちかって言うたらネコ、やけど…
未経験ではない、ないけどタチやったことないし。
女の子とは一回しか経験ないし、そもそもイケへんかったし…?」
「へー?一応女とも経験あるんやぁ?
なんかそれもやけど他の男と経験あるんも嫌やなぁ」
押し倒した状態のまま暁音がずい、と顔を近付ける。
薄い半そでの上から胸をさらりと撫でて息が漏れると、悠が顔を赤くして顔を隠すと暁音は少し笑った。
半そでの下に手を滑らしてさらっとした肌に直接触れる。
びくっと反応する悠と指の隙間越しに目が合う。
「やぁらし、勃ってもうてるやん。ここ触られんのすきなん?」
悠の股の間を膝で押す。
服を捲って胸を触ると悠が小さな声で喘いだ。
悠の履く緩いデニムを下げてそれより先の下着に手を伸ばすと、それを止めようとする悠の手が伸びてそれを躱す。
「見して?」
「ややって、まだ心の準備できてへんし!
ガッコ終わりで汚い…って、や…ぁっ、待って、ほんまに汚い、触らへんで…っ」
顔を赤くして露になったそれを隠そうと悠の両手が邪魔をする。
その手を片手で軽くつかんだまま悠自身に触れると熱をもってあたたかい。
先走りで濡れた先から少しずつ全体を濡らして上下に動かすと、悠の息があがっていく。
「はっ、やぁ…っ、」
「かんわい、気持ちえぇの?もう手離しても嫌がらへん?」
何度も頷いて離された片方の手は暁音の服を掴んで、もう片方は口元を隠した。
音のない部屋に時折聞こえる冷蔵庫の稼働音と悠の吐息。
暁音が悠にキスをするたびに聞こえる湿った音。
「あかん、も、むり…、暁音ティッシュとって、やばいって…っ」
「届かへんしこのまま出し?」
ふるふると首を振るのに、悠の意志とは別に吐き出そうとする欲を抑えられない。
「……っ、出る、イっ、……」
「………イッたなぁ」
手の平と悠の顔を交互に見て、もう一度悠を見るとにっと悪戯っぽく笑う。
悠が暁音に退くように促して、ようやく上から退いたあとまじまじと悠を見る。
「ハルかわえぇなぁ。」
「かわいないし!はよ手洗ってき!」
はいはいと立ち上がる暁音を見送って、脱がされたついでにスウェットに着替えた。
過去に付き合った人というのには正直なところ語弊がある。
付き合ってはいないけど、そういう関係になった人。これが正しい。
いわゆるセフレという関係で、それを暁音に知られるのが嫌で付き合った人ということにしておいた。
同じクラスの女子と付き合ったのは本当のことだが、挿入する気持ちよさがいまいち分からず相手に申し訳ないことをしたと今は思う。
好きの気持ちが足りないから達することができなかったのかと当時は悩んだものの、目で追うのはクラスメイトの男子ばかりで、そこから自分が同性愛者なのだと気が付いた。
近づく足音で回想をやめて戻ってきた暁音を見る。
「ハルー、俺もスウェット履きたい―。貸してー」
「今日は嫌や。スウェット貸したら泊まってくやん。」
「泊まってってもええやん。ボクサー前置いてったのんあるやろ?
…あぁ付き合うたから?なんかされんちゃうかなーって思っとんの?」
にやにやしながら横へ座って、顔を覗き込もうと首を傾げた。
悠の前髪を軽くかきあげて目を合わせる。
ふい、と目線を逸らしたあと顔ごと別の方を向く。
「俺まだ一緒におりたいんやけど」
「~~~っ、言い方ずっこい…!そんなん俺やっておりたいし!
やけど暁音えろいんやもん、何されるか分からへんやん!」
「そら付き合うてるしな、時期が早いか遅いかの違いやん。
そーれーにぃ、ハルは抜いたかもしらんけど俺抜いてへんしぃ。
どうせすんねやったら一緒に気持ちよぉなりたいやん?」
ぎゅっと後ろから悠を抱きしめて「どうしても泊まりあかんの?」と聞くと、抱きしめてきた腕に額を摺り寄せて「うぅ、」と小さく唸った。
駄目なわけがない、ただ悠の気持ちの問題なだけ。
暁音もそれを分かっていながらわざときく。
「…なんもせえへん?」
「それは無理やろ、おんなし部屋で好きなやつといてんのになんもでけへんって地獄やで」
「暁音ってそんな変態やったっけ…?」
んーん、と首を振る。
ぎゅ、とさらに力をこめて耳元にキスをした。
「好きやから色々したなんの。
触りたいとかキスしたいとか普通ちゃう?悠の好きはそういう好きちゃうかった?」
「違わへんけど急すぎんねんもん…。
友達としての暁音しか知らへんし、こんな甘々なん知らん…」
――今までの人は?
頭で思い浮かべて口には出さない。言ったってどうせ過去は変わらないから。
悠の肩に頭をのせて悠を抱きかかえると悠が小さな声で驚く。
「分かった、今日はキス以外何もせえへん。でも一緒おりたい。それでもあかん?」
キスはすんのかい、と呟いたあとに息を吐く。ため息とは違う短い呼吸。
「…あかんくない。
ごめん、俺のペースに合わせんの辛いよな。でもなんかもういっぱいいっぱいやねん。
好きーって思ってんねんけど、進みすぎて嫌われとぉない…」
「そんなことで嫌わへんって!
先生、ボクこの3日間で色んなこと予習復習しましたんで。
男同士はヤる前に準備があるとかケツでイケる人少ないとか
ローションとかゴムとか色んなもん必要とか。」
「誰が先生や。
調べたん全部セックス関連やないか、もっと他んこと勉強せぇ」
暁音が笑って、それにつられて悠も笑う。
恋人としての距離を縮めた春はあっという間に過ぎていく。
窓にあたる雨が弱くなって、夏がすぐそこまでやってきていた。
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