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1年・夏(2)
髪を拭きながら悠のことを考えて無意識に口角があがる。
――こんな好きになると思ってへんかったなぁ
付き合った日から日を追う事に好きな気持ちが増える。
高校生のときとは違う恋愛なのは相手が同性だからなのか、それとも自分が少しは大人になったからなのか、はたまた相手が悠だからなのか。
ベッドへ座りながら冷静になろうとしているのに、悠のにおいがする空間ではそれもさせてくれない。
キッチンに置いたままのカフェオレとコーヒーをテーブルに置き直して、悠の方のブラックコーヒーを一口飲む。
「にーがぁ。やっぱ飲めへんわぁ。」
独り言をつぶやいてカフェオレを飲む。
こちらはしっかりと甘くて悠の優しさを感じた。
甘いもの全般苦手なはずなのに悠の家には暁音用に用意された甘味類が多くあって、それを見る度に優越感に浸る。
脱衣所の引き戸が開く音がして悠の履くスリッパの音が近付く。
「たーだいまぁ。カフェオレ飲んでたん?
ちゃんとおいしい?」
「ん、おいしー。ハルちゃんおいでおいで。
あーい、ハルちゃんのにがぁいコーヒーですよぉ。」
ストローを悠の口元へ持っていって飲ませると、シャンプーかボディソープのにおいと混ざる。
悠のコーヒーを置くその刹那、唇が触れる。
「はよベッド行こ?もぉ我慢のげんかーい」
「…ふふ、ほな行こか」
狭いシングルベッドの上で悠の上に暁音が乗る。
首筋にキスをして少しだけ吸いあげると悠の口から小さく息が漏れて、暁音の頭をぎゅっと抱く。
「…待たせてごめんな?」
「告白の返事待ってもろてたし、お互い様やろ」
使ってるものは同じにおいのはずなのに、元々の体臭の違いなのか別のにおいがする。
「ハルちゃん、頭離してくれへんと触られへんのやけど?」
「あ、あぁ、すまん…好きやなぁって思っとった」
「あは、ほんま俺愛されてるわ。俺も悠のことすき。」
ちゅ、と音を立ててキスをして少しずつ深くなっていく。
悠の手が暁音の肩にまわって密着しながら悠のいいところを探る。
「…ぁっ、や…、暁音、そこ…」
「ん、ちゃんと言うて?」
「……もっと触って…?」
ベッド脇のローションの蓋を開けて手に馴染ませたあと、下着の中へ手を入れて直接触れると悠の身体がびくっと震える。
「……っんん…、声、が…っ、あっ」
「出したらええやん、こんな真昼間に誰もおらんって。
なぁほんまかわいい、もっと俺ん事好きんなって?
俺おらんと生きてけへんようになって?」
「なん、それぇ…あっ、そこあかん…っ
あっ、やぁ、や…っ」
トントンとそこに触れる度に声が漏れでて止まらなくなる。
ローションのぬめりと先走りが混ざってドロドロになって、慣れた手つきで悠のスウェットと下着をおろすと、指を増やすと悠の声が少し大きくなった。
声を抑えようと口を抑える手をどかしてキスをすると、その拍子に悠から精液が飛ぶ。
「はっ、は…ぁ、ごめ、先イッてもた…」
「別イくんはええけどまだ終われへんで。
散々お預けくらってようやっとよしされたんやし
もうこれ以上待てへんって。なぁ?」
少し強い語気にぞわっと心が波立つ。
普段の顔とは違う顔つきと少しだけ高圧的な物言いに戸惑っていると悠の上にまた暁音が跨って少しずつ悠の中へ入ってくる。
「あっ、や、イッたばっか…っ」
「待てへんって言うたし」
またリズム良く打ち付けてくる快感に、悠の声がまた艶っぽくかわっていく。
強い言葉とは反対に悠を抱きしめるようにゆっくりと動いて、髪を撫でた。
「はるか」
「んっ、ぇ、な…に…っ?」
「めっちゃ好き、やっとできたんほんま嬉しい」
「…ふっ、んぅ…俺も、おんなじ…やし…ぃっ」
途切れながら想いを伝えて暁音と手を繋ぐ。
少しずつ早くなる動きに恥ずかしさと気持ちよさで、泣きそうな顔になる。
暁音の少し荒い息遣いが耳元で聞こえてさらに熱があがって悠も同じように息があがっていく。
「悠あんま締め付けんといて…っ
最近してへんかったし、すぐイきそ…」
「息、えろい…んやってぇ…っ
んんぅ、も、や、やら、早く動かんでよお…っ」
涙を浮かべた瞳と半ば呂律の回らない話し方で暁音を見る。
その目と声が暁音を刺激してきて熱がこみあげる。
「ごめん、ちょお早いけどイッてもええ?
気持ちよすぎやし、かわいすぎるし…」
良いも悪いもなく悠の中へ一枚越しに熱を放つと、悠もくたっとして暁音を見た。
浮かべていた涙がこぼれて目の横に筋をつくっていて、それを拭うと悠の手が暁音の顔にのびる。
「どした?」
「……嫌んなってへん…?」
暁音の頬を撫でながら不安そうな顔を浮かべる悠にきょとんとした顔を向けたあと、言っていることを理解して笑った。
「ほんまアホやなぁ、最中に何聞いてたん?
俺なしで生きてけへんようなってって言うたやん。
最上級の愛の言葉やねんけどなぁ。」
「……重ぉ。ふふ、暁音もやでな、
ずーっと俺とおらな幸せんなれへんで?」
「ほんなら俺ら離れたらあかんなぁ」
やけどさぁ、と暁音が重ねて言う。
なに、と返す悠にのしかかると悠が重そうに呻く。
「さすがに抜かへんとまずない?」
「…それははよ抜いて」
くすくすと笑いながら処理をしたあと2人の腹についた精液をティッシュで拭いて、狭いベッドで抱き合う。
目が合うとキスをしたり抱きしめ合ったりしているうちに、悠が静かに寝息をたてはじめてそれを見ているうちに日が暮れ始める。
「時間すぎんの早ぁ…」
身体を起こして暁音が呟く。
テーブルの上のすっかり氷の溶けたうすいカフェオレを取ろうと動くと、悠が暁音の腕を掴む。
「どこ行くん…?」
驚いて悠の顔を見ると同じような顔。
「や、カフェオレとろかなって…なんで掴んだお前が驚いてん」
「あ、いや……、なんも、ない…」
パッと手を離して顔を片腕で隠しながらため息をつく。
――なんでこんな不安なんねん、大丈夫やって…
「ハルー、このカフェオレもうおいしないー。ハルのもうっすいやろし作りなおそやぁ。
…ハル?なにどしたん。なんで顔隠しとんの?」
「なぁほんまに俺でええの?後悔してへん…?」
「してへんって。…ほらおいで、ちゃんとここおるって。
顔見てみ?ハルちゃんの好きな暁音くんやろ?」
悠の手をどかしてぎゅ、と抱きしめて顔を覗く。
涙目の悠と目が合って髪に手櫛を通す。
「俺なぁ、ハルの髪めっちゃ好き。今まで髪とか興味なかってんけど
ハルのんだけは好き。さらさらでいっつもええ匂いする。
触ってると可愛えぇなぁ、愛しいなぁってなんねん。
なんでこんなん思うってハルが特別やからやん?」
うん、と頷いて起き上がると暁音を抱きしめた。
過去の恋愛の相手が異性な以上、いつかそっちに行ってしまいそうな漠然とした不安。
それを拭いきれないまま暁音にキスをした。
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