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第3話
俺の手を自身の頬に当てて慈しむように俺を見つめる魔王。
「お前は直ぐにどこかに行こうとするからな。」
「まぁ、それが仕事なんで…。」
「せっかく愛を分かちあったのに、寂しいことを言うな。」
「分かちあってねぇよ。俺から分けたものなんて1つも無ぇよ。勝手に受けとんな。それ奪ってるだけだから。」
魔王に犯されたなんて言えないし、こんな奴のせいで『好きだった仕事を辞めた』なんて過去を作りたくなくて今もこの仕事を続けているが、こいつがこうして俺に絡み続けてくるなら配置換えの要求が必要だな…。50年くらい前までは『人間が食べられてしまった』なんてニュースが出てたらしい地域だから後任が現れるか分からず、結局辞めることになるかもしれないのが懸念点だが…。俺も…まぁ…喰われてるし…。
「いっそその足を折ってしまえばお前はどこにも行かなくなるのか?」
「あはは〜…。ご冗談を…。」
未だに手を握りしめるこいつのとち狂った発言にゾワゾワと肌が粟立つのが止まらない。
やめろよな。目が本気に見えんだよ。絶対やめろよ!!
「あの〜、魔王様。俺ね、この後も仕事あるんです。前も無断欠勤かましたことになって会社にも他のお客さまにも凄い迷惑かけちゃって〜。」
「私以外に客を取るな。」
「うるせえよ。お前もう黙れよ。」
取るとか取らないとかそういう話じゃねーよ。
ダメだ。こいつは話が通じない。
動物ということ以外共通点無いわ。いや、実際そうなんだけど。だってこいつが烏みたいな翼生やして城に戻ってくるのとか見たことあるし、鋭い牙は常に生えてるし、そもそも体の成分が俺たち人間とは違うのだと聞いたこともある。
だから体も部分によっては変幻自在なんだと。きっとそこでオドオドしながら様子を見てる鷹頭だって人の顔になれるのだろう。そしてそれもまたとんでもない美形なんだろう。
はー…、と、溜息を吐き出しながら「まじでうぜぇぇ。」とイカレ野郎に呆れているとガリッと噛まれた感触と痛みが右手に走った。
見ると手から流れ出る血を魔王が舐めとっているところだった。
どうやら魔王は俺の手に牙を立てたようだ。
「てめ…!何す………、ぁ……?」
カクリ、と体の力が抜け、崩れ落ちそうになるのを魔王が支える。
「神経毒だ。私たちは体の中で毒を作り出すこともできてな…。人間相手だと量の調整が難しいが、意識はどのくらいある?気分はどうだ?」
「気分は最悪だよ。」
「そうか。大丈夫だな。では部屋に行こう。」
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