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第9話
魔王の住む城、通称『魔城』の魔王プライベートルーム。
そこで魔王をベッドから蹴り落とす音を響かせるのは、後にも先にもきっと俺1人だろう。
「また勝手に入ってきやがったな、てめえ!」
朝になり、首元に感じる寝息と腹に当てられた人より低い温度の手のひらで、すぐに状況を理解した俺は後ろから俺を抱えるそいつを蹴り飛ばした。
床に転がり「ぅぅ…。」と、芋虫のように身悶えたそいつ、もとい、魔王は、困ったように俺を見上げる。
「身重の伴侶を気遣うのは夫として当然の務めだろ?腹の子が順調に育っているのを確認してから眠ることくらい許してくれないか?」
「誰が伴侶で夫だよ。第一、なんで確認したらその後俺のベッドで一緒に寝るんだよ。いい加減その茹だって使い物にならない頭、交換してこい。」
見慣れない模様が足首に刻まれてから、早2ヶ月。
俺は魔王の部屋があるこのフロアでの生活を余儀なくされていた。模様が刻まれてからというもの、なぜか階下に出ると足首から先に力が入らなくなり、自分の足で歩けなくなってしまったからだ。
そうとは知らず、魔王を振り切って初めて階段に飛び出した日には、盛大に数段分を転がり落ちて情けなく地面にへばりついたものだ。
『何1つ不自由させない』って発言も嘘じゃねーか、くそ。
もう外の世界ではまともに歩くことも出来ないのなら、魔王の言うとおり俺の足は今後、ここで魔王たちのために使うしかないのかもしれない。
俺の仕事はどうなったのか。居なくなった俺を誰か心配して探しているのではないか。
そんなことを考えるも情報を得る方法は無くて、俺は世話係としてつけられた羊頭の魔族から外の生活について薄らと聞くような日々を過ごしていた。
しかしそんな俺の不安も露知らず、魔王は相変わらず色ボケしたような頭で部屋に戻ってくると拒否の意を全力で示す俺を捕まえてはキスをして、腹を優しく撫でる。
魔王に『子供が居る』と言われた俺の腹は、悲しいことに、医者により本当に妊娠判定が下されていた。
「魔族についての知識を付けるように」と渡された本にはだいたい男性の場合だと半年で卵が生まれ、更にその1ヶ月後に卵が孵るのだと書いてあった。
卵生かぁ…。まぁあの羽だしな…。
なんて、以前に見た烏のような魔王の羽を思い出しながら落ち着いて本のページを捲ってしまったが、違う。そうじゃない。
この腹の中で、魔王の子供が今も育っていることが、俺には未だに信じられない。
俺の気持ちなど他所 に置いたまま腹の子は育つが、しかし、変化する状況の中でも、魔王は変わらず俺に『好きだ』と宣 い、腹の子の誕生を日々待ちわびていた。
そして今もまた、懲りもせずベッドに上がってきた魔王はギジリ、とベッドを軋ませ俺に近寄り、俺の体を包 むように跳ね除けられていた毛布をかけてきた。そしてその上から自身の腕を回すと俺の腹を撫で、柔らかく微笑む。
「もう2ヶ月か…。早く逢いたいな…。」
「…。」
パシリとその手を弾いてから睨むと魔王は今度こそ『降参』とジェスチャーをするように両手を上げながら笑った。
魔王は度々、酷く愛しそうにこんなことをする。
俺のことも腹の子も、とても大切に思っているのが伝わってくるが、そう受け取ってしまうこと自体、認めたくない自分が居た。
ふいっ、と顔を逸らすと魔王が唐突に「お前は子供が嫌いなのか?」と、聞いてきた。
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