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06-4 お前の側にいたい(4) 芽生える決意

王城の執務室。 重厚な扉が開かれ、ルカが慌ただしく駆け込んできた。 「殿下! 朗報にございます!」 その声に、机に向かっていたユリウスが顔を上げる。 彼の目の下には濃い隈が浮かんでいた。 父を失った悲しみと、叔父の圧力に抗う緊張が、彼の心身を蝕んでいたのだ。 「……朗報?」 「はい! 王弟エドマンド様の悪事が暴かれました。捕らえられていたロイ様も無事解放され、レオンハルト様が直接、反逆の証を押さえてくださいました!」 「なっ……!」 ユリウスの心臓が大きく跳ねる。 思わず椅子を蹴って立ち上がった。 「ロイは……レオンは、無事なんだな?」 「ええ、ロイ様は傷はありましたが命に別状はございません。レオン様は全くの無傷とのことです」 「そうか……よかった……」 ユリウスは深く息を吐き、壁にもたれかかった。 膝の力が抜け、心からの安堵が込み上げてくる。 (レオンハルト……また、お前が……) 思えば、彼が来てからどれほど救われただろう。 魔物の襲来も、竜の襲撃も、隣国の侵略も――すべて腕力で退けてきた。 今回もまた、陰謀の渦中から自分たちを引き上げてくれたのだ。 だが同時に、胸の奥にちくりと痛みが走る。 自分は王子でありながら、何一つ成し遂げられていない。 すべて彼に救われてばかりだ。 (私は……あの人の側で、本当に成長しているのだろうか? 本当に、王になれるのだろうか……) 迷いが胸を覆う。 父のように、堂々と民を導ける気がしない。 自分が王位に就いても、結局は彼にすがってしまうのではないか――。 だが、そんな思考を断ち切るように、ルカが力強く告げた。 「殿下、民衆は殿下を支持しております。エドマンド様に従った貴族たちも、これで力を失うでしょう。 今こそ殿下が、堂々と王位を継承なさるべき時です!」 「……私が?」 「はい。民は、殿下が引かずに立つことを望んでおります」 ユリウスは瞳を伏せた。 弱気な自分と、期待を寄せる民の姿。 その狭間で揺れる心。 そして、脳裏に浮かんだのは――彼の姿だった。 聖者レオンハルト。 常に大仰なまでの自信を見せ、時に余裕ぶった笑みで自分をからかう。 魔法を使えないことを「役立たず」と吐き捨てたときでさえ、彼は笑って受け流した。 けれど、いざという時には必ず背中を見せ、全てを守ってくれる。 (あの人がいるから、私はここにいられた……) 気づけば頬が熱を帯びていた。 心臓が早鐘を打つ。 父を失った悲しみと、不安に押し潰されそうな胸に、彼の存在だけが灯火のように燃えている。 「……ルカ」 「はい、殿下」 「私は……王位を継ぐ。民の声に応えるために。そして……」 そこまで言って、ユリウスは言葉を飲み込んだ。 本当は「彼の隣に立ちたい」と続けそうになったのだ。 だが、それを口にする勇気はまだなかった。 「それでよろしいのです! 殿下こそが、次代の王に相応しいお方です!」 ルカの言葉に、ユリウスは小さく微笑んだ。 決意はした。 だが、不安は消えない。 だからこそ、あの人に会いたい――。 (レオンハルト。……あなたに、会いたい)

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