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09-2 ずっと俺の隣にいろ(2) 影武者作戦

王城の一室。 重厚なカーテンに覆われた部屋の奥で、ユリウスは不安げに椅子へ腰かけていた。 対面に立つのは、衣装を整えたレオンハルト。 「……似合ってる」 ユリウスは思わず本音を漏らした。 レオンハルトの王族衣装を身にまとった姿はまさに国王だった。 ユリウスとの体格差は埋まらないが、この堂々たる姿なら問題にはならないだろう。 レオンハルトは満足そうに姿見をのぞく。 「暗殺者が来りゃ、真っ先に俺を狙ってくるだろう。よしよし」 心配そうな顔のユリウス。 「……大丈夫だって言ってんだろ。子猫ちゃんは部屋でおとなしくしてろって」 軽口を叩きながらも、レオンハルトの瞳は鋭く光り、すでに臨戦態勢に入っていた。 それがユリウスの胸を少しだけ落ち着かせた。 **** その頃、城の中庭では別の動きがあった。 そこに立っていたのは、白銀の髪を持つ若き結界師――カイル。 王城の防衛を任された天才魔導士だった。 「この私の結界を破れる者などいない……必ずや陛下をお守りしてみせる」 彼は誇らしげに詠唱を開始した。 無数の光の糸が空間を走り、城全体を包み込んでいく。 繊細で強固な魔法障壁が形を取り、兵たちは歓声を上げた。 「さすがはカイル様だ!」 「これで安心だ!」 だが、その自信が後にあだとなる。 彼の結界は完璧に見えたが、魔族はすでに術式の隙を突いていた。 **** 夜が更ける。 レオンハルトは「国王ユリウス」として私室に佇んでいた。 表面上は優雅に書を読む姿を演じていたが、その耳は微かな気配を逃さなかった。 「……来たか」 窓の外から、黒い影が忍び込む。 闇に溶けるような魔族が二体、刃を構えて音もなく迫ってきた。 だが、次の瞬間―― 「――侵入者、結界が検知した!」 中庭からカイルの声が響く。 光の鎖が一斉に張り巡らされ、侵入者を絡め取ろうとした。 「ふん、浅はか」 魔族のひとりが冷笑し、指を弾く。 鎖の一部が黒く染まり、音もなく崩壊していく。 「なっ……!?」 結界を操るカイルの額に汗がにじんだ。 「ありえない……! この私の結界を……!」 自負と誇りが揺らぐ。 その動揺を突くように、魔族のもう一体が影の中から滑り込んだ。 狙いはただひとつ――王の命。 **** レオンハルトは椅子から立ち上がった。 ゆったりとした動作の裏に、拳へ込められた圧倒的な力が潜んでいた。 「……やっぱり来やがったな」 暗殺者の刃が振り下ろされるより早く、レオンハルトの拳が影を叩きつけた。 壁が震え、黒い体が吹き飛ぶ。 「ぐっ……!? 王が、なぜ……お前は誰だ?」 「悪いな、俺は偽物なんだ」 レオンハルトの口元が笑みを描く。 驚愕する魔族を前に、彼は影武者としての役割を無事に果たしていた。 **** 一方のカイルは必死だった。 崩れゆく結界を修復しようと呪文を紡ぐが、黒い影が次々と侵入してくる。 兵士たちが慌てて武器を構えるが、魔族の気配はつかめない。 「くそ……私の力では……」 彼の誇りは打ち砕かれつつあった。 その時、遠くで響いた轟音――レオンハルトの拳が暗殺者を弾き飛ばす音――が、城全体に鳴り響いた。 カイルは思わず顔を上げ、呆然とつぶやく。 「まさか……腕力だけで、あの魔族たちを……?」 自分の結界が破られる中、別の手段であっさり状況を覆す存在。 その現実が、彼の心に衝撃を与えていた。

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