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09-3 ずっと俺の隣にいろ(3) 騎士の如き聖者

その頃、王の私室。 暗殺者は二体。 ひとりは壁に叩きつけられ、うめき声を漏らしていた。 もうひとりは影に身を潜め、再びレオンハルトへ刃を向ける。 「……本物の王はどこだ? 吐けば見逃してやる……」 と言いつつも、黒い刃が振り下ろされた。 だがレオンハルトは、顔色ひとつ変えずに受け止める。 「ふん……遅ぇ」 刃と拳がぶつかる。 金属がきしむような音と共に、暗殺者の腕が逆に弾き飛んだ。 「ぐあっ……!」 赤黒い血が飛び散る。 「お前らの狙いは最初からバレてんだよ。悪いが、王はここにはいない。安全な場所で守られてんだよ」 低く響く声に、魔族は怯えの色を浮かべた。 「ただの護衛ごときに、我らが遅れをとるとは……!」 「ただの護衛だぁ?」 レオンハルトは一歩踏み出し、暗殺者をにらみ据えた。 「俺はユリウスの男だ。王の隣に立つって決めたからには、誰も指一本触れさせねぇ」 その一言が、刃よりも重く突き刺さった。 **** 廊下から駆けつけた兵士たちが、すさまじい光景を目の当たりにした。 黒い霧をまとった魔族が床に叩き伏せられ、うめき声を上げている。 レオンハルトはその首根っこをつかみ、片手で持ち上げていた。 「おい、起きろ。お前たちは魔族の暗殺集団だな? 依頼主は誰だ」 「く……くはは……教えると思うか……?」 「そうか」 次の瞬間、壁が震えるほどの音と共に、魔族の体が床へ叩きつけられた。 その余波だけで石畳にひびが走る。 兵たちは言葉を失った。 ただの拳で、魔族を圧倒している。 「……何なんだ、この人は……」 「人間じゃない……」 恐怖とも畏敬ともつかぬ声が漏れた。 **** 戦闘は小一時間で終息した。 レオンハルトは、口を割らずに自害した暗殺者の残骸を兵に引き渡し、静かに私室の椅子に腰を下ろした。 衣装は乱れ、手にはわずかな血がついている。 扉が開き、ユリウスが飛び込んできた。 「レオン!」 ユリウスは駆け寄り、彼の腕をぎゅっとつかんだ。 その手が震えているのを、レオンハルトは感じた。 「……大丈夫か? 怪我は? この血はまさか!?」 「敵の血だ、ほらくっつくな。血がつくぞ」 「そんなのは構わない……」 ユリウスの瞳には涙がにじんでいた。 その姿に、レオンハルトは一瞬だけ表情を和らげる。 「楽勝だ。このくらい平気だって」 「……本当に?」 「本当さ……それに……お前が心配してくれるの、悪くない」 軽く笑う声に、ユリウスの胸は熱くなった。 怖くて、愛しくて、どうしようもなく心を揺さぶられる。 その夜、王城を覆う闇は払われた。

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