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11-3 もうどこにもいくなよ(3) 地を裂く一撃

迷宮の奥からは絶え間なく魔物が湧き出していた。 骨のような姿をした犬型の魔獣、鎌を持つ虫の怪物、そして影のようなスライムまでが、瘴気に導かれるかのように押し寄せる。 レオンハルトは拳を構え、隣で肩を支えるマーラに言った。 「お前はもう限界だろ。ここから先は俺に任せろ」 「しかし……」 「黙って見てろ」 鋭い声音に、マーラは口を噤む。 次の瞬間、レオンハルトの拳が地面を叩き割った。 轟音が走り、石畳が波打つように隆起し、迫り来る魔物を一掃する。 「ぐわああっ!」 「ヒィィ!」 魔物たちの断末魔がこだまし、空気が一気に澄んでいった。 だが、それでも湧き出る群れは止まらない。 奥にあるダンジョンの核――コアが存続する限り、出口は魔物を吐き出し続けるのだ。 「やっぱり、核を壊すしか……」 マーラが呟くが、レオンハルトは首を振った。 「いや。時間が足りねぇ」 「……何をするつもりですか?」 「簡単だ。出口ごと潰す」 その言葉にマーラは目を見開いた。 「正気ですか!? ここは地下迷宮です、上から崩落させれば――」 「地上が埋まる? 問題ない。俺が調整する」 不敵な笑みを浮かべる。 その姿に、マーラは何も言えなくなった。 彼の目に宿るのは無謀ではなく、絶対的な確信だったからだ。 **** 一方その頃、地上では。 冒険者や兵士たちは防衛線を死守していたが、魔物はなおも溢れていた。 「もう持たないぞ!」 「後退だ、城門へ!」 混乱が広がるその時、鋭い声が飛ぶ。 「落ち着け! 聖者殿が動いている。持ち場を守れ!」 副官ロイが剣を抜いたまま、的確に指揮を執る。 彼の声は戦場を束ね、兵士たちに辛うじて踏みとどまる力を与えていた。 その直後、地響きが走った。 ドンッ! ドドドド……ッ! 大地そのものが震え、地表が盛り上がる。 兵士たちが顔を上げると、丘陵が不自然にひび割れていくのが見えた。 「な、なんだ!?」 「地震か!?」 直後、轟音と共にダンジョンの入口が――内側から吹き飛んだ。 黒い瘴気が霧散し、吐き出されていた魔物たちが瓦礫に押し潰されていく。 「うおおおおっ!」 「ダンジョンが……崩れていく……!」 兵士たちが呆然とする中、瓦礫の山の上に立つ人影があった。 拳を振り下ろしたままのレオンハルトだ。 「これで出口は塞いだ。魔物はもう出てこれねぇ」 土埃を払いながら、涼しい顔で言い放つ。 兵士たちは一瞬言葉を失い、次いで大歓声を上げた。 「聖者様だ!」 「一撃で迷宮を……!」 「こんなことが……本当にできるなんて!」 その喧騒の中、遅れて地上に出てきたマーラは、全身を震わせながら彼を見上げた。 「……やはり、あなたは……化け物です」 その声には畏怖と憧れが混じっていた。 レオンハルトは鼻で笑い、肩をすくめた。 「褒め言葉として受け取っとくよ」 ロイは部隊を再整備しつつ、その光景を静かに見つめた。 (やはり、この方は……常人の及ぶ存在ではない) 胸に湧いたのは、主への揺るぎない敬意だった。 **** こうして、迷宮からの氾濫は終息を迎えた。 王都の人々は瓦礫の山を見上げ、伝説を目撃したかのように口々に「聖者」の名を讃える。

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