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帰り道2

【東峰 春side】 「東峰ってさ」 人気のなくなった道を通り始めて、冬森先輩が言った。 「え?」 「どこ大だっけ」 尋ねられた冬森先輩の話に、ちょっとだけ驚いた。 この話は、前にも少ししたことがあった。 「…えーと、N大学です」 若干動揺しながら言うと、冬森先輩は、あぁそうだった、と一言。 「なんか部活入ってんだっけ」 「あー…いえ、今は、特には」 「そっか」 言って、あいも変わらず前を向いて歩く冬森先輩に、ちょっぴり緊張している自分を感じた。 突然、会話らしい会話をしたから、だろうか。 そりゃ話す時はこうやって、ちょこちょこ話したりとかするんだけど、でも、最近冬森先輩と合うシフトの時にバイト入ってなかったしな…。 だから、こんな会話も久しぶりで、戸惑ってしまってるのかな。 なんとなく、隣にいる冬森先輩をチラリと見てみた。 黒いジャケットに、白のシンプルな薄いトップス。下は細めのGパン。靴はなんだか、高そうだ…お洒落だし、なんか。 俺なんて、ゆるゆるのグレーのパーカーに、ゆるゆるのGパンに、くたびれた靴。 そこら辺から、俺と冬森先輩の違いって出てるんだろうな…。まず俺、服に興味とか全くないし。お洒落な服とか、似合わないしなぁ。ほんと。 「東峰って、彼女とかいんの」 「えっ」 唐突に聞かれた冬森先輩からの質問に、俺は目を開くくらい驚いた。 というより彼女って……何でそんなことを?意味不明だ。 「いません、……けど」 ここまでプライベートなことを聞かれるのは、正直、かなりビックリした。 だって相手は、無口な冬森先輩だし…。 ていうか、こんな身なりで仕事も卒にこなせない俺に、彼女なんていると思うだろうか。 「へーぇ。…そうなんだ」 聞いてきた割に、またそんな短い返事をして、心なしかそっぽを向いたような先輩に、少し腹の内がムカッてした。 もしかして先輩は、俺に彼女いるか聞いて、それで案の定いないって返ってきて、心の中で笑ってるんじゃないのだろうか。 見た目無表情だから分かんないけど、本当は先輩、俺のこと嘲笑ってるんじゃないだろうか、とか。 あーあ…こんなこと思うなんて、つくづく俺ってとんだ卑屈野郎だなぁ。 でも、冬森先輩って実際かなりモテるし。 今してるバイト先でだって、冬森先輩のルックスと頼り甲斐のある感じに多くの女の子がどっぷり惚れ込んでる。 俺も異性なら、先輩に惚れてたんだと思う。 でも同性だから、実際劣等感しかない。 カッコよくてお洒落で仕事もできる。しかも冷静で落ち着いてって…いいとこ揃い過ぎて、勝ち目なさすぎて喧嘩もろくにできないって感じだ。 そんなことしたら、負けた俺が周りに笑われて、もっと惨めな気分になる気がして、怖いっていうか。 「東峰の家って、歩いて数十分だよな」 日の落ちた空を見上げながら、冬森先輩が口を開いた。 「あ、そうですね」 暗がりに見る冬森先輩は、同性の俺から見ても、やっぱりカッコよかった。 「近くていいなぁ。バイト先」 そう言ったほんの少し口元を緩めた先輩に、胸のあたりが何故だかざわついた。 多分普段、先輩って…表情が動かないから。 「先輩って、何処住みですか?」 流れでなんとなしに聞いた質問に、冬森先輩は歩き始めてちらっと、初めてこちらに振り返った。細い目が、いいんだと、女子たちが話しているのをふと思い出した。 「うーん。そうだなぁ…駅で言ったら、次の次辺りくらいかなぁ」 モテて、カッコよくて、服装もおしゃれで。 なのに先輩は、冴えない俺と、こんなくだらない会話をする。 いや、違う…か。”冴えないから”、俺とこうして、いるのか…。 どんどんと暗い方向に傾いていく自分の根暗で卑屈な思考回路に、たまらなく嫌気が差す。 「次の次って、結構あるじゃないですかっ」 先輩と歩きながら、なんだかんだと分かってきた。 冬森先輩に対して、妬んでる部分がそれなりにあるんだってこと。 自分を卑下にして、勝手に落ち込んだりしてしまうこと。 「うん。でも今日、東峰と、歩いて一緒に帰れるかなって、思ったから」 だけど、冬森先輩は本当にいい人で。かっこいいのに、飾らなくて。優しくて。 だから、モテても憎みきれないというか… 冬森先輩は、こんな冴えない男の俺にでも、あんまりやさしいものだから。 「ど、どういう意味ですか、それっあはは」 不意に立ち止まる冬森先輩に心臓が跳ねた。 大体、バイクで来てないことからおかしかった。 それに加えて俺を歩いて送る…? 何の為に?女の子ならまだしも、俺は男だ。送られる理由なんてない。 親しくなりたかったから?でも、冬森先輩にそんなことしてメリットなんてあんの?あるわけないだろ。 悶々と考えていると、冬森先輩はいつの間にか、俺をじっと見つめていた。 「俺、……東峰のこと、なんか、気になんだよね」 冬森先輩は、かっこいいけど飾らなくて、優しくて。だから憎めなくて、いい人で。 だけど冬森先輩は、無口で。モテて、だけど誰にも振り返らなくて。 俺は、勝手にこの人に嫉妬心抱いて、でも冬森先輩は俺にそんなこと全然思っていなくて。 冬森先輩は――先輩は、 全く予想していない気持ちで、いつからかずっと、俺のことを見ていたんだ。

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