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気になる後輩1
【冬森 郁斗side】
先月辺りから、だろうか?
バイト先に、一個下の後輩が入ってきた。
「よろしくお願いします」
名前は東峰 春(トウミネ ハル)。俺と同じ大学生で、男。
「ああ、よろしくな。一応教えろって言われたから一通り言っとくから」
俺の言葉に、東峰は、はいと言って、視線を逸らしながら返事をした。
多分、東峰は髪も染めてないし、真面目な奴なんだと思う。
俺は耳にも穴開けてるし、髪も茶色だし、だからちょっとびびってるかなぁ…とか。
彼のあまり目を合わせないところからそんなふうに読み取れた。
俺は見た目こんなだからたまに誤解されるけど、別に喧嘩っ早いわけでも、そこまで不真面目なわけでもない。
髪も耳も服装も、単なる趣味でしかなく、それ以上でも、それ以下でもないのだ。
「冬森さんって、彼女いるんですかー?」
「えー?いないよいない」
それにしても、最近の子たちってすごいよね。メイクしてスカート履いて、頑張ってるなぁ…と、ほんと思う。
でも、
「冬森先輩、お疲れ様です」
「うん。お疲れ様」
それよりも、東峰の色白過ぎる肌の色とか、伏せられた時に見える彼の長い睫毛とか、そういうとこばかりに目を惹かれてしまう俺は、……やっぱり、おかしいのだろうか。
東峰って、まず真面目な感じの割にミスとかするから、なんだか放って置けないんだよな。
だから必然的に、目で追っちゃうというか。
「冬森先輩っ」
普段、無表情に仕事をしている東峰。
俺と入っている時、何度かは絶対俺に助けを求めてくる。
その時の東峰って、常時してる真顔とは打って変わって全然違う慌てた顔してて、そこがすごく可愛いんだよな。なんて言うんだろ、ギャップ?
「どうした?」
優しく聞いてやると、目を下にする東峰。
「すみません、英語で話しかけられて…分からなくて、困って…」
ぺこ…と頭を下げる東峰に、思わず笑みが浮かんでしまう俺。
バカにしてじゃなくて、可愛くて、だ。
「うーん。分かんないけど、俺が一応やってみるから、東峰こっちやっててくれる?」
にこっと軽く笑って言うと、東峰は安心したようにふわりと口元を上げた。
東峰は、根がすごく真面目だ。
少しの失敗も、ミスもしてはいけないと思い過ぎていて、だから切羽詰まってこうやって助けとか呼んじゃう。
…もっと楽にしててもいいのになーとか。
ついそう思うけど、東峰のその真面目なところが、俺自身結構気に入ってたりもする。
――
「東峰君って冬森さんの一個下ですよね?」
ある時、同じシフトで入っていたバイトの子が言った。
「ああ、うん。そうだよ」
答えると、東峰と同い年に当たる女の子が、こちらに振り向いてごく自然に笑った。
「へ〜ぇ、もう仲良くなったんですか?歳近いし」
「え?」
「女子って色々、中々すぐ打ち解けなかったりとか、あるじゃないですか。でも、冬森さんと東峰君って男同士だし、その辺羨ましいな~って」
頬っぺを薄いピンクのチークで彩った彼女は、首を少し傾けながらそう言った。
彼女は、…もしかして、東峰のことが気になっているんだろうか。
話しを聞いて、すぐにそんなことを思ってしまう自分がいた。
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