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気になる後輩2

【冬森 郁斗side】 東峰と俺は、あまり親しい仲とは言えない。 「冬森先輩」 東峰は、いいと言っているのに、未だに俺を先輩呼びしてきて、敬語を遣って話してくる。 別にそれでもいいんだけど、そんなに固くなんないでもいいのにな。 歳が一個違っても打ち解けようよっていう俺なりの思いなのに、東峰はそれを頑なに拒む。 「そういうのって、やっぱりちゃんとした方がいいと思うんです」 そう、真面目な顔で東峰に、ア然としてしまったことを今でも鮮明に思い出す。 確かに、俺のほうが1年年上だが、言ってしまえば、されど1年。たった1年、だ。 同じ男子大学生というのに、全く雰囲気も性格も考え方も違う彼を見て、俺は少し驚いていた。 自分で言うのもなんだが、割と後輩の男の子たちとはすぐに打ち解ける方だった。 まあ彼らも、俺と同じようなタイプだったからなのかなとか、今思えば…そう思ったりもするけど。 でも、それにしても東峰は真面目すぎだろう。 あんなに真面目じゃ、人生損するんじゃないか?過労死するんじゃないか…? 彼はあまり、人と絡まない。 まあ俺も、そんなに絡まないんだけど。東峰って、目大きいし、童顔だし。 もう20歳になるとは思えない顔をしているから、無邪気な面とかもっとこう、あったりしそうに思わず見えるというか…。 でも、東峰って、 「東峰〜〜、飯行くーっ?」 「あーいや、俺はいいですー」 見た目とは打って変わって、冷めてるんだよな…意外に。 真面目だったり、冷静なのかと思えばたまにミスして慌てたり…。 気づいたら俺は、東峰 春という人物を、いつも陰で見つめていた。 *** 「東峰、今日帰り歩きなんだっけ。どうなんだっけ」 ある日のバイト終わり。 俺は、同じ時間に上がった東峰がそばで着替えているのを見て、そう声をかけていた。 彼とシフトが合うのはしばらくぶりで、こうして一緒の時間に上がるのもしばらくぶり。 東峰は、俺の方を向いて動作をぴたりと止めた。 「今日は歩きです」 きょとんとしながらそう言った東峰。 俺は東峰ににこりと笑いかける。 「じゃあ、送る」 東峰は、心なしか驚いた顔をして俺を見ているような気がした。 今日は、バイクを家に置いてきた。 そうすればきっと、彼と一緒にゆっくり並んで帰れると思ったからだ。 東峰は俺より背が低く、童顔だからか、彼の羽織ってるラフなパーカー姿が、とても可愛いく見えた。 東峰だから、こんなに似合うんだろうなとか。内心そんなことを考えてる俺のことなんて、きっと彼は気づきもしないんだろう。 夜道を彼と並んで歩きながら、何気なく聞いてみた。 「東峰って彼女いんの?」 「いません、……けど」 返ってきた東峰の言葉に、俺はほっとしていた。 何気なく聞いたはずの質問だったのに、どうやら、自分で思っていたほど何となくで済む質問ではなかったらしい。 ていうか俺、東峰のこと…まじでそんな好きなのか…? そう思うと、途端に照れくさくなった。 東峰とは反対側に顔を向けて、前髪を触る。 よく、周りに冷静だの落ち着いてるだのと言われる俺だが、別に俺は周りが思うほど、そんなかっこいいやつではない。 「先輩って、どこ住みですか?」 東峰の問いかけに、次の次辺りの駅と答えた。 「次の次って、結構遠いじゃないですかっ」 わずかに笑みを含ませながら喋る彼を、俺は振り向き見つめる。 「うん。でも、東峰と、歩いて帰れると思ったから」 東峰は、俺の台詞に一瞬固まった。 でも、すぐにあははと笑って、濁されそうになったから――だから、 「俺、東峰のこと、なんか、……気になんだよね」 だから、……こんなこと、思わず言っちまった。 口が勝手に動いて、滑った…。

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