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先輩がおかしい1

【東峰 春side】 え、……気になる? って…。 もう少しで家に着くという辺りで立ち止まって、俺と冬森先輩は、何故かじぃっと互いに顔を見つめ合わせて突っ立っていた。 な、何でこんな状況に…。 正直、何で冬森先輩がそんなことを急に言ったのかもよく分からないし、冬森先輩が何故バイクを置いて俺とわざわざ帰るのかも未だによく分からなかった。 「冬森先輩、」 声をかけると、冬森先輩は我に返ったようにハッとして俺を見た。 「や、ごめん…」 「え?」 「いや、さっきの…」 珍しく濁して言う先輩に目を瞬かせる。 「いえ、別に大丈夫です」 じゃあ俺もう家すぐそこなんで。 よく分からないまま、そう言ってその場を離れようとすると、 「あっ待って、」 ぐっと、先輩に腕を掴まれてしまった。 突然の行動にビックリして振り返ると、冬森先輩の目が俺を捉えていた。 「東峰、…あのさ」 真っ直ぐ俺を見てくる先輩の目に、体が緊張で強張った。 俺は先輩と、あまり真正面から向き合って会話をしたことがない。 先輩は俺とは違うし、俺は先輩といるような人間じゃないから。 だから、真正面から…先輩と、上手く話せない。 先輩にまだ掴まれたままの腕を中途半端に上げて、俺は、また何故かこちらをじーっと見つめてくる先輩の視線に内心動揺しまくりだった。 なに。俺の顔に何かついてる?ついてるならついてるって、そうならそうと言って!じろじろ見られてたら、すごい困るんですけど! 口には出せずに思考を巡らせていると、冬森先輩が俺のすぐ後ろにあった壁に片手をぽん、とついた。 ふっと顔を上げると、近い距離に先輩の顔が映る。 ってこれ!……世に言う壁ドンじゃね!? 俺は心の中で声を上げる。 あれ、でも俺なんで、冬森先輩にこんなことされてんだろ。 俺たちだって、男同士、なのに。 「東峰」 「はいっ」 近い距離で囁かれる冬森先輩の声に、緊張が最高潮に達した。 てか意味わかんないっっ!!何で俺先輩に壁ドン食らってんの……! 「俺… よくわかんないけど、もしかしたらお前のこと、好きかもしんない」 それに続けざま、はいっと言おうとして、俺は冬森先輩を見上げて固まった。 今、何て言った? 好き、かもしんない?は……? 「東峰って、真面目で、一生懸命で、可愛いじゃん」 「え、あ…」 「好きかも。俺、お前のことすごい、気になる。好きなのかも、俺」 ちょ…… ちょちょちょちょっっと待って!ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って! ええっ!!?なに言ってるの!?先輩!? 「東峰、俺のこと気持ち悪い?」 先輩は、不安げに瞳を揺らしながら訊ねてきた。 それずるい。拒んだら、絶対俺が悪者になるパターンじゃんかっ。 「き、気持ち悪いとかは、全然ないですけど…」 「じゃあ、付き合わない?俺と」 え、ぅええぇええーー……っ!? まさかの冬森先輩の発言に、俺はもうありえないくらい驚いていた。もう、夢でも見てるんじゃないかと思うくらい。 だって、冬森先輩が俺のこと? どうして?意味わかんないし…。 でも、皆んなの憧れの冬森先輩が俺のことを好きだなんて、ちょっと優越感…みたいな。 「付き合ってくれる?」 暗がりで見る、かっこいい冬森先輩の端正な顔立ちに、心臓がどきんと跳ねた。 付き合ってくれる…か。そんなこと言われたら、断れるわけないな。うん。 「…別に、いいですよ」 でも、本当にそれだけかな。 優越感とか、そういうの感じただけだったかな。 俺は、冬森先輩に対してそういう気持ち、抱いてないのか? 本当に…。 「マジ?よっしゃー」 珍しく、満開の笑顔を見せる先輩に、目が釘付けになった。 先輩、俺なんかと付き合えてそんなに嬉しいの? って、ああ……ダメだ。 俺の馬鹿、なに胸ときめかしてんだ。先輩の笑顔に。先輩は同じ男、先輩は“先輩”、なんだぞ。 「じゃあLINE交換しよ。ほら」 「あ、はい…」 その後俺は、言われるままに先輩とLINEの交換をして。 先輩は颯爽と1人歩いて帰っていった。 なんだかなぁ。 何が起きたのか、いまいちよくわかんなかった。 とりあえず、夕飯食べて一旦落ち着こう。 なんか今、俺心臓変だ……。

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