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分かってない1
【冬森 郁斗side】
東峰って可愛い。
「せ、…先輩…、」
ちっさいし上の人には絶対逆らわないし。
こうやって帰り道に俺がキスしようとしたら、両手を前に出して小さく抵抗アピールなんかして。
そんな軽いダメサインされても、こっちとしてはそれも一種のOKサインなんだと、勝手に解釈してしまうんだけど。
ぐっと近寄ると、東峰の出した手が、俺の胸あたりに当たった。
「そ、外だし……人に見られたら…やばいですって…」
視線を逸らしながらしどろもどろに言う東峰に、俺は心の中で、真面目、と呟いた。
「分かった」
離れると、東峰は安堵した表情を浮かべているように見えた。
「バイバイ」
そう言って、俺はすぐに最寄りの駅へと向かった。
ちょうど来た電車に、俺は駆け足で乗車する。
プシューと電車の扉が閉まり、近くの手すりにもたれかかって立った。
少し、…あんな顔をされるのは悲しい。
東峰からは、まだ好きと言われていない。
というよりそもそも、付き合うのはOKされたが、まだ東峰の気持ちが俺にあるわけでは、……ない。と、思う。
告白は突然だったし、俺も言うつもりなかったのに、思わず言ってしまって、予想外なことに東峰はそれを承諾して。
…何であんな簡単に、OKしてくれたんだろう。男同士っていう時点で、引いたりしなかったんだろうか。
それとも、俺が先輩って立場だから、東峰まさか、断れなかったとか?
「……」
付き合うって、どうやるんだっけ。
付き合うなんて行為は、もう随分前にしたっきりだった。
そっから久々に夢中になった相手が、男って。
東峰にはああ言ったけど、しばらく付き合ってない内に、俺っていつの間にか、ホモになってたんかなぁ…。
***
「うぃー」
「うぃーっす」
朝、大学へ向かうと、いつものメンバーに会った。
「あ、そーだ!!郁斗郁斗っっ聞け聞け俺の朗報話〜!」
「なんだよ、朗報?」
肩に掛けていた鞄をドサっと机上に置くと、大学からの仲である智也が、見るからにテンション高めに話しかけてくる。
「いや〜実は俺こないだ、合コンでいい感じに女の子と上手くいってさ〜〜」
話しながら、隣の友人に肩を組まれて、嬉しそうに笑う彼。
「お、へーぇ。マジで?」
「そうそー。そんでこいつ!ちゃっかり遊ぶ約束とかももうしてんの〜」
友人の話に、智也は照れたように笑っている。
俺たちの大学は男子校で、合コンでもなければ女子との出会いがない。
だから合コンは、割と頻繁に場が設けられているらしい。
誰が主催してんのかよく知らないけど。
「そういや郁斗は?彼女とかは?」
急に自分に振られる話題に、内心少々どぎまぎとする。
「え?いやぁ俺はさ…」
なんて答えよう…。
「あー駄目駄目!郁斗は付き合うとか、面倒くてやってらんねーってたちだからさ!」
悩んでいる矢先に、智也に笑いながらそう言われた。
俺はそれに、半ば助け舟を出された気持ちになりながら、愛想笑いをして彼らと一緒に声を出して笑った。
実はバイト先の後輩の、しかも男と付き合ってる、なんて知ったら、こいつらどういう反応するんだろうか…。
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