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分かってない2
【冬森 郁斗side】
談笑していると――スマホが唐突に、ピコンと鳴った。
すぐに画面を見てから、俺は目を大きくする。
「誰?」
LINEを開く俺の横で、スマホを覗こうとする友人の首根っこを瞬時に掴んだ。
「見んな」
「あっなにっ」
ぐいぐいと押しのけると、怪しい〜と言った目で周囲から見られてしまった。
「なんだかんだ言って、郁斗も彼女いてんだろ?」
「いねーよ」
「嘘つけ。じゃあ何で隠すんだよ、友だちだろ〜」
言って、また覗こうとするやつの顔を手で押さえた。
「ちょっ何すんだよッ」
「うっせ。見んな、あっち行け」
ちぇ〜と軽く舌打ちをする友人を横目に、俺はスマホをズボンのポケットに入れる。
さっきのLINE通知は、東峰からだった。
〝毎日バイトが同じ日に送ってもらうのは悪いので、バイクで来てください〟
LINEの内容は、それ。
……東峰は、何も分かっていない。
俺が東峰のこと好きってこと、本当に理解してんだろうか。
バイクで行けば俺が歩かなくて済むからとか思って、気遣って言ったのかもしれないけど、俺からしたら、一緒に歩いて帰ることを拒否られてんのかと思っちまう。
そーゆーこと、あいつは全然考えたりもしないんだろうか…。
***
翌日の夕方時。
東峰と同じシフトだった。
「東峰」
一人、休憩室で座る彼を見つけて声をかけた。
「は、はい」
東峰は、こちらを見てびくりとしながら、体と表情を強ばらせる。
「東峰、あのさ。バイクで来いって話だけど」
そばに腰掛けながら話すと、東峰はまたも体を揺らして、若干俺から体を離した気がした。
……マジに、傷付く。
東峰の顔を手で無理矢理こちらに向かせると、今度は、ひいっと怯えた顔をされた。
あーも、心折れそう……。
「東峰……俺と付き合うの嫌なら、ちゃんとそう言ってな」
「えっ」
「俺、…先輩だから、東峰に無意識に拒否権なくしてたのかもしれないな。だとしたら、ごめんな」
若干うつむき気味に頭を触りながらテンション低めに言うと、
「――そ、そうじゃないんです!」
いつもより張った彼の声が聞こえて、驚いて顔を上げる。
「俺、そういうんじゃなくて……。だって、冬森先輩って」
言いながら、困惑したような顔をする東峰。
「だって、先輩って……俺と違って、オシャレで、カッコイイですし…」
東峰は、何やらごにょごにょと話しながら、目を泳がせている。
てか、今何気にサラッと言ったけど、カッコイイ……って。
なにそれ。褒め言葉?フツーに嬉しいんですけど…。
なに、わざと?それともそうではなく、素でそんなことを言ったのか?
天然たらしっぽいなぁ、なんかコイツ…。
「あの、さ」
俺は首裏に手をやりながら、彼に話しかける。
「なんて言うか、俺はそんなこと全然思ってないっていうか。違うとか…よくわかんないけど」
「…」
「俺はただ普通に、東峰の全部、好きっていうかさ……」
そこまで言って、ハッとした。
つーか俺、今すごい恥ずかしいこと口走らなかった?
いや絶対、口走ったよな?
東峰を見ると、耳まで真っ赤に染めていた。
東峰肌白いから、余計赤いのが目立つんだろうな…。
――て、そうじゃなくて。
「あ……今のは、なんつーか」
「もうほんと、冬森先輩そういうこと言うのやめてよ…」
え……
その声に思わず彼を見たら、赤い顔をした東峰が、困ったような顔をして瞳を潤ませていた。
……何その表情。
思わず固まった。
だってなんか…微妙に上目遣いになってるし、それに何そのS心をくすぐる顔…!バイト先でそんな顔すんなこの天然たらしめ…っ!!
……と、心の中で叫ぶ。
「冬森先輩?」
「あ、…いや」
…結局、そんなこんなで、東峰は別に、俺のことを拒否していたわけじゃないと分かった。
口で直接、そう言われたわけじゃないからわかんないけど。でも、そんな赤い顔されたら、言われなくとも分かっちまう。
でも、東峰は俺のことを一体、どういう感情で見てくれているのだろうか。
拒否られているわけじゃないとしても、俺と同じように恋愛感情で好き……か?
まだそれを聞くのは怖いから、もう少し東峰の様子を見ていたいと思う。
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