9 / 39

現金なココロ1

【東峰 春side】 “バイクで来てください” そう送ったのは、先輩が嫌だからじゃなくて、単純に先輩が大変だと思ったからだった。 でも先輩はなぜか、「俺と付き合うの嫌なら言ってな」と、そう後日に言ってきて。 俺は慌てて落ち込む先輩の姿を見て、そうじゃない――っと誤解を解いた。 だから最近も、先輩と同じ時間に上がる時は、一緒に夜道を歩いて帰ることが続いていて。 「じゃあ、また」 そう言って、去り際に素早く額にチュっと、俺は先輩にキスをされる。 冬森先輩から毎回されるそのキスには、少しの抗う隙さえも、運動神経の鈍い俺には全くなくて。 「……チャラい」 そう独り言を吐いて、俺は頬を少々火照らせながら、家に帰宅する。 冬森先輩は、何で俺のことなんて好きになったりしたんだろ。 今更、改めて思う今日この頃。 だって、どう考えても不思議過ぎる。 冬森先輩、モテるし。第一カッコイイし、仕事できるし。俺ダサいし、服に興味ないし、仕事能力低いし。ほら、おかしいだろ? それとも、全部持ってる人って、醜いやつがタイプだったりするのかな。 「雅人。お前プリン食べた?俺のプリン」 実際、冬森先輩って、素の俺のことどれだけ知ってるんだろう。 例えば、冷蔵庫をぱかっと開けて、そんな幼稚なことを言う今みたいな俺のことなんて、きっと先輩は微たも想像もしないんだろうなぁとか。 冬森先輩って、大人だし。 俺ももう20歳になるのに、こんな子供じみた性格じゃ、すぐに愛想尽かされちゃうよなぁ。 ……なんかやだな、そんなの。 冷蔵庫の奥底に眠っていたプリンを見つけて食べながら、気づいたらそんなことを考えていた。 でも、何でそう思うんだろう。 別に俺、冬森先輩のこと恋愛感情として好きじゃないし。 もし愛想尽かされたって、別に害はないはずなのに。 先輩に付き合うの嫌なら言えって言われた時も、いつの間にか必死でそうじゃないって言ったりして。 そのうち、俺はスプーンを手にしながら、そっとテーブルに視線を落とす。 ……いや、そうか。 先輩のことをそういう気持ちで好きじゃなくても、俺は先輩と付き合う関係を維持したい。 ――そうしたい理由はきっと、 先輩が周りから評判がある人で、人気者だからで。 だから俺は、あの人に好かれることが嬉しくて。 …だから俺は、先輩のことを離さない。 だから俺は、先輩の気持ちを受け入れた。 だから俺は、ガードできる程のキスは、――先輩にさせないんだ。 今まで全然罪悪感とか、そういうの抱かなかったけど、今思えば、俺って…結構先輩に酷いことしてるのかもな。 プリンの甘さが、嫌に口の中で際立つのを感じた。

ともだちにシェアしよう!