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こっちを見なさい1
【冬森 郁斗side】
なんで……?
東峰の考えていることが、何もわからない。
電話を切ったスマホを手に、片手で長くなった前髪をぐちゃぐちゃにかき乱した。
だってつい最近東峰は、あんなに顔赤くして、俺を見ていたんだ。好きって言っても、引かなかったし、寧ろ照れるくらいで。
こんなの納得いかねえ……。つか、そんな早々に納得してやるかよ。
後日。
東峰と同じシフトに当たったその日、彼を見つけて声をかけた。
「東峰」
東峰はすると、びくりとして慌てて俺から逃げた。
……はあ?つーかなんだよその態度。
先輩の俺を無視?後輩のくせに、許されると思ってんのか?
ムッとしながらも、それからも何度か彼を見つけて声をかけた。しかし、東峰はそれを全部スルーしやがった。
いい加減、俺にだって我慢の限界くらいあるんだからな……。
「おい待て」
バイト終わり。
そそくさと帰ろうとする奴の細い腕をすかさず掴む。
「は、離してくださ……」
「―店長。東峰が俺のこと無視するんです。挨拶もしないし、全然話せないから仕事にならなくて」
声大きめに少し離れたところにいる店長に言うと、周りにいたバイトメンバーがこちらを一斉に振り返った。
東峰は俺を見て、困った顔をして瞳を揺らしていた。まるで、助けを求めているような。…アホか、俺が仕掛けたことを、誰が助けるかよ。
店長に軽く咎められた東峰は、落ち込みながら、一言だけすみません…と言って、バイト先を後にした。
ちょっと、可哀想だったかな…とか。
真面目な東峰の小さな背中を見つめて思ったけど、今更思ってももう遅い。
「待って」
早歩きで帰ろうとする彼の腕を、外で再び掴んだ。
「離してっ」
「東峰」
「冬森先輩がっ、あんなことすると思わなかった……っっ」
東峰は、店長に告げ口したことに少し怒っていた。
「だって、そうでもしないと東峰、ずっと無視すると思ったから」
「そんなわけないじゃん!…ないじゃないですか!俺だって何もそこまでっ、子どもじゃない!」
声を上げる東峰に、ちょっと驚いた。
やっぱさっきのは、まずかったかな。背を向ける東峰に、俺は軽く頭を抱えて息を吐いた。
すると、視界の隅で、東峰がまたサクサクと歩き出すのを見て、慌てて彼の腕を掴んで引き止める。
「おい待てって。東峰、電話の話の続き」
「…何でそんなに俺に拘るんですかっっ!」
大きな声を出す東峰。
「俺…っ、別にかっこよくないし、先輩とは服装も趣味も好みも何もかも違うと思うんです、それに俺っ、ホモじゃないしっっ!」
東峰の言葉に、カチンとした。
なんっだよそれ。俺だってホモってわけじゃねーよ。
「ていうかさ、“違う”とかっていうそれ、前も言ってたけど、それなに…?東峰、お前の言ってることって、たまによくわかんないっつーか…」
「何でもできる先輩にはわからないですよ。先輩は仕事できるし顔いいし、妬んだりとか、嫌ったりとか、したことないんでしょ?そういうとこから全部違うって、そう言ってるんです」
どこか冷めた口調で突き放すように言い捨てる東峰に、目を開いて佇んだ。
思えば俺は、東峰の愛想笑いしたとことか、無表情なとこしか、常日頃見たことがなかったんだ。
たまに可愛く照れるんだとか、良いとこばかり、俺は見てきて。
……でも、こんな冷たい顔もするのか。
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